大菩薩峠

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2002年 1月30−31日

雪山。美しさと厳しさの支配する世界。
そこへ人間が入るには多くの経験が求められる。今回はその経験をつむために大菩薩峠を目指した。 大菩薩を選んだ理由を列挙すると、

  • 以前登ったことがある
  • 適度に雪があるだろう
  • 避難小屋があり、そこからの展望が良い
  • それほどきつくない
  • バスが100円
などなど。甲府盆地の向こうには南アルプスが白く光っているだろう。

出発の朝。それが義務であるかのように寝坊をする。
アクセスのバスには2つの候補があった。余裕をもって登れるものと、日の入りにぎりぎり間にあうものだ。雪を考慮すると当然余裕のある方に乗るべきだが、それに間にあわなくなった。
まぁ遅いほうでも何とかなりそうだし、慌てて出発して忘れ物をするよりましだ。

高尾を過ぎたあたりから、中央線からの景色には雪が混じり出した。車窓から見上げる大菩薩は真っ白だ。

登山口のバス停に降りたのは1時半ごろ。あまり時間がないのでさっさと出発。
登山道のはじめから雪がある。しかし踏み跡もしっかりついていて、さくさく歩く。樹林ごしの空は青い。木や岩の影が雪の上に強い陰影を描く。なかなか快適だ。

以前あれだけ文句を言った林道も今日はさほど気にならない。冬期は閉鎖になることに加え、獅子座流星群のときにお世話になったこともあるからだろう。

上日川峠までの道のりは、難所も特にないが、短いかというとそうでもない。 そのつもりで歩かないと結構疲れる。
ロッジ長兵衛にて多少の休憩をとる。建物に人気はないが、ここで一人のおじさんとすれ違った。

ここからは10分おきくらいにいくつかの小屋が並ぶ。どれも週末営業のようで、誰もいない。さすが人気の山、道も歩きやすく、ここまでは順調だ。
勝縁荘からは稜線に向けての登りが始まる。

20分ほど登ると、いきなり踏跡が消えた。さっきのおじさんはここで引き返してきたのか。こうなってしまってはしかたがない。暗くなる前に稜線上に出れば何とかなるだろう。腹をくくって処女雪の中をかき分けることにした。

空は赤く染まり始め、なかなか進まないものの、距離的にはもうヒトイキでつくはずだ。
昨年も経験したが、新雪は進みづらい。特に登りでは、一歩進んでは沈み、登っては沈む。このくらい柔らかいときは、かんじきを持っていたとしてもあまり変わらないだろう。 とにかく雪をかき分けて、泳ぎ、四つんばいになって、もがきながら進む。

日が沈んだ直後、大菩薩峠に建つ介山荘が見えてきた。あそこまでいければもうすぐだ。
が、進まない。稜線から多量の雪が吹きおろされてきていて、この最後の登りはこれまで以上にふかふかだ。本当にすぐそこなのに進まない。
まぁあせる理由もないので面白がって登っていたが、これが悪天候時なら命取りになることもあるかもしれない。

やっとのことで峠に出ると、そこはなかなか感動的な光景が広がっていた。
もうすでに日は沈んでいて,空の色がもっとも鮮やかな時間帯だ。
茜色を甲府盆地の山々のシルエットがふちどっている。富士を隠す雲が急速に吹き流される。影の沈んだ盆地は人々のともす灯が、にぎやかだ。
そして僕は赤く照らされた雪の砂漠で風に吹かれている。

手ブレに気をつけよう
今日の宿泊予定地はもうすぐだ。稜線上は風が強く、日が当たるためかこれまでに比べれば雪は硬く、浅い。場所を選べば随分歩きやすい。親不知の頭でヘッドランプを装備して数分後、無事6時に避難小屋へ到着した。

先程の夜景はあまりにも惜しいが、とりあえずは休養と食事が必要だ。 雪を溶かしてラーメンを作っているうちに、落ち着いてしまった。寒風吹きぬける中、稜線まで撮影にいくのが面倒になった。
7時ごろからは月が昇り始める。ほとんど満月に近い。こうなると外のほうが明るくなり、星は見えにくくなる。小屋の周りで何枚か写真をとって眠ることにした。

3時ごろ、撮影のために暖かい寝ぶくろを出ることにした。ちなみに冬季用の寝袋は昨年落としてしまったので、今回新規購入したものだ。なかなか快適だ。
親不知の頭までは5分とかからない。夜とはいえ、小屋からは月光の照らす雪原をけっこう気軽に往来できる。 風が吹き荒れる稜線上に出ると、甲府盆地に広がる街の灯、その向こうにはうっすらと南アルプス連峰が、左に目をやると富士山が月に照らされている。 夜明けまでにこんな写真をとった。

朝食後、荷物をまとめて8時半に出発。あとは降りるだけだ。大菩薩嶺は無視して、当初考えていたとおり唐松尾根から下山することに決めた。

夏には草原となっているところだ。一面雪に覆われ、なかなかの高度感がある。
同じ雪でも、さらさらの粒子が深く積もったところ、氷化して硬くなったところ、表面は硬いが卵の殻のようにすぐに割れてしまうところなど様々だ。
歩きやすさもまったく違う。確かに未踏の雪に自分の足跡を残していくのには満足感がある。だが疲れる。この日以降の数日間に大菩薩を歩いた人は僕に感謝をしましょう。
雷岩の分岐のところまでは、夏の時間の倍はかかった。

ここからは樹林帯の下りだ。以前も経験したが、新雪の下りは雪の無いときよりも恐さが無い。沈み込もうが滑ろうが、とにかく足を前に出せればよい。雪が膝上まで包み込み、とりあえず進む。スパッツと登山靴はちゃんと機能していて、足に不快感はない。泳いでいる、あるいは雪と戯れていると表現できる。
とはいえ疲れる。やはり倍近い時間がかかった。

ルートファインディングはそう難しくない。人間の先行者はいなくても、ケモノ達のトレースはある。彼らも登山道を歩くようだ。
足跡を比較すると、自分の泥臭さにうんざりする。彼らは飛ぶように歩いているのだろうが、こちらはいちいち大地に穴を開けている。 ときおり(多分)シカの足跡がみれる。以前ここの山域で出会ったことがあるが、彼らの運動能力はすごい。足跡も地形を無視したかのようについている。

福ちゃん荘で往路に合流。休憩していると単独行のおにいさんが登ってきた。 この二日間での入山者はおそらく3人ということになるのだろう。 ここからはよく踏まれた道だ。あまり急がず歩いていって、12時半ごろ、バス停前についた。

大菩薩にあるものは避難小屋や展望だけでなく、鉱泉も付け加えねばなるまい。 バス停前の民宿にて、熱いお風呂とほうとうで疲れを癒すことにした。
お風呂は500円でほうとうは1000円。老夫婦がCustomerというよりもGuestとして対応してくれる。


コースタイム

1/30 13:20 登山口バス停 15:20 上日川峠 16:00 勝縁荘 17:30 大菩薩峠 18:00 避難小屋
1/31 8:30 避難小屋 9:45 雷岩 11:45福ちゃん荘 13:15 登山口バス停

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