大菩薩嶺

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2001年7月9-10日 大菩薩

目を覚ますと青空が飛び込んできた。

あ、山行くか。

これまであまり夏山には登ったことが無い。僕の場合、山に登る主な目的は星を見るためなので、空気の澄んだ冬の季節に登ることが多い。
また、暖かくなると自転車旅行に行くし、魚が口を使いだすと海に行く。

従って山に行くのは10月から3月ごろとなる。
しかしここのところ釣りにはよく行っている。海の男は山も知らなければならないし、久しぶりに山を見に行きたい。

甲府気象台午前五時発表の予報。晴れ、朝晩はくもり。降水確立は終日0%。

うーん。どうしよう。

まぁこういうものは意外とチャンスは少ないもので、行けるときには行ったほうが良い。

登る山は既に決まっている。大菩薩だ。アクセスのしやすさ、展望、避難小屋があることから前々から目をつけていた。深田百名山の一座でもある。

どたばたと準備をし、11時に出発。北朝霞、西国分寺、高尾で乗り替え、14時ごろ塩山着。 ここから登山口までバスで30分くらいなのだが、このバスが何と100円。塩山市内100円均一とあるから、市から補助金でも出てるのだろうか。
路線バスが次々と廃線になる中、この大英断には拍手を送りたい。

乗客は7〜8人だったが、下山してくる人たちは随分多かった。天気の良い休日、山は中高年でいっぱいだ。

林道と交錯しながら登山道は続く。山道は静かで、空の雲は徐々に増えてゆく。 1時間ほど登ると、再び舗装道路と合流する。わかってはいるが、やっぱりがっかりする。悔しいのでちょっと罵倒してみよう。

「確かにここまでは車でもこれるし、その方が楽かもしれない。しかし車の中からこの夏の香りを味わうことができるのだろうか。エンジン音の中で虫や鳥たちの静寂なにぎわいを感ずることができるだろうか。
また、ジープを乗りまわして自然派を気取る輩が存在するならば、彼は偽善者をとおり越してすでに傲慢な無知だ。美しい自然というものは気軽に楽しんだ時点で崩壊への道をたどり始め云々・・・」

舗装道路との合流地点には「ロッジ長兵衛」がある。山小屋というより高原のペンションといった雰囲気だ。ここで一息つく。

更に登ると「福ちゃん荘」。管理人は既に下山したようだ。
ここでさらに長い休憩をとっているとおばさん三人組が下りてきた。なんだか挨拶をしているうちにおかしや食料を恵んでもらえることになった。ありがとうございます。

これ以降、舗装道はなくなる。約一時間の登りで稜線上の大菩薩峠につく。
同じような標高でも雲取山に比べ随分楽だと思う。

介山荘のある峠についたのは午後6時だ。夏はこの時間でも明るい。稜線上はガスっていて展望はまったく無い。残念だ。

さらにピークを一つ越えると避難小屋のあるさいの河原に到着する。もともとはここが青梅街道の峠で、机竜之介が人を斬っていたのはここなのだろう。

小屋は予想どおり誰もいない。貸しきりである。まだ明るいので花の写真をとりつつ食事の準備。 このぶんでは星は見えなそうだ。まぁロケハンにきたと思えば腹も立たない。夜半には晴れるかもしれないと期待を持ちつつ食後就寝。

目を覚ます。外の様子をうかがうとケモノが鳴いている。遠くの仲間と交信したりしている。ヘッドランプを向けるとびっくりしているようだ。足音から判断するとシカのようだ。まぁ襲ってくることは無いだろう。
肝心の空の様子だが、戸を開けるとさそり座がよく見えた。そして次の瞬間、流星が明るく明滅しながら落ちて行った。

もう少し雲が取れれば写真も取れそうだ。
しかしこれ以降、雲の量は増えることはあれどなくなることはなかった。
ラジオを聞きながらチャンスをうかがったが、薄い雲の層を突破できるのは18歳の月明かりのみだった。

そのかわり朝焼けは期待できる。寝坊をせずに4時ごろ起床し撮影。雲が朱に染まり、やはりきれいだった。展望はない。富士の展望地のはずだが、夏は見えにくいのかもしれない。

この時の気温は15度。まさに夏の高原のイメージだ。
この短い夏にかける生き物たちの気合はすごい。鳥は日の出とともにちゅんちゅんと鳴き出すし、花は咲き乱れ草はおいしげり、蝿はたかってブヨは血を吸い、まぁ皆さんがんばっていらっしゃる。

朝食後、荷物をまとめて6時ごろ出発する。遠景は霞んでいるのが残念だが、気持ちの良い稜線だ。高嶺の花はところどころで咲いている。写真をとると蝿に密着マークされる。

樹林帯に入ると大菩薩嶺に到着する。そこからは林の中、丸川峠を目指す。 木々の合間から朝の光がさし込んでいる。苔類はひっそりと茂っている。
写真をとったのだが、露出を間違えた。よくあるミスだ。

道の向こうで何かが動いている。登ってきた人だろうか。それにしてはちょっと小さいか。向こうも僕に気付いた。その刹那、恐ろしい勢いで逃げ出した。

シカである。

それにしても四つ足はすごい。登山道をはずれて、人間が落ちたら戻ってこれないんじゃないかというような断崖をあっという間に移動してしまう。源義経もびっくりだ。

再び青空が見えてくると丸川峠だ。山小屋があるが月曜日ということもあり、誰もいないようだ。まわりはよく整備されていて好ましい雰囲気。大きな山に囲まれているが、富士や南アルプスが見えるらしい。

ここからは少し急降になる。雪が積もったときは大変かもしれない。

そして再び裂石のバス停に戻ったのは10時半ごろだった。果物の直売を覗いているとそこの老夫婦がお茶を薦めてくれた。何だか遠い親戚の家にでも遊びにきたかのような待遇である。
いろいろとお話をしてくれた内容は、川の音にかき消されて半分くらいしかわからなかった。


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付近の山▲大菩薩峠の冬 ▲三頭山 ▲高川山 

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登山口まで
いくらのっても100円。最初ウソかと思った。素晴らしい。

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