八ヶ岳 本澤温泉・天狗岳
ほんざわおんせん てんぐだけ

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2004年 12月25日−12月26日

先週は海の温泉にいた。
黒潮の洗う伊豆諸島、式根島。断崖絶壁の裂けた空間に存在する別天地、地なた温泉。海水と温泉の混ざりあった適温のところを探して浸かる。波に揺られながら星を見ていた。


式根島、地鉈温泉。この崖の向こうに海があり、その手前に温泉がある。

今週は山の温泉にいる。
標高2500m級の山々が連なる八ヶ岳。その中央付近に位置する本澤温泉。我が国最高所の露天風呂。雪をかぶった硫黄岳の絶壁、あかね雲、昇る満月を眺めながら渓谷のせせらぎを聴いていた。


雪山の中の温泉

世間ではクリスマスということだ。
別に普段は気にも止めずに仕事したり、研究室行ったり、部活があったりで日常生活とは特に違いを感じられないでいたが、どうやら普通の若者は恋人と一緒にいるべき時間らしい。 マスコミがあおっているだけかと思っていたが、そのように行動しなくてはならないと考える人々は意外と多いようだ。
今年は少し気になったのは年齢ということもあるかもしれないが、週末だったからだろう。有給使えば4連休を作れる週末だ。 何かやろうか、という気になる。
しかしこうなると何だか友人を誘いにくい。あの人は恋人いてあの人はいないから、この人は実はいたのかなどと気を使いながら誘うのは面倒である。恋人いない者同士で文句良いながら鍋でも、というのも論外だ。 あわてて恋人を探すというのも私のとる手段ではない。 ではいつもどおりパソコン向かって年賀状でも作るとするか。

いや違う。落ち着いて考えてみよう。 時は12月、太平洋側では晴天率、空気の透明度が最も期待できる季節だ。 そして僕にはテント、登山靴がある。この季節にしかできないことは、プレゼントを貢ぐ以外にもある。

今年は暖冬な様で、各地のスキー場はおろか、山でも標高2000m付近まで雪はないらしい。かねてより関心のあった、最も標高の高い露天風呂でクリスマスをすごすというのも悪くない。あこがれの雪の稜線のピークに登ることも難しくないかもしれない。
18きっぷの季節でもある。どうせ小海線に乗るんだし、各駅だけで行くのにも向いているだろう。

早朝に横浜を出て、文庫本読み、飯を食い、居眠りしながら中央線のっているとお昼ごろ松原駅につく。 ここからバスに乗っていくのだが、登山口である稲子湯まで、この季節でも行ってくれるのかどうかがはっきりしなかった。前日役場に問いあわせたところでは出ているとのことだったが、実際運転手に聞いてみると11月で終わりらしい。 手前の稲子登山口というところでおろされた。

ここからは樹林帯の中を歩く。地図で見たところ、稲子温泉から登る場合と時間はそれほど変わらないようだ。 静かな道を3時間ほど歩いて本澤温泉へ。雪は小屋の手前以外では日陰にほんの少し残っている程度であり、夏道と変わらない。空は青く、風はない。歩きやすい道だった。 今日のご飯

チェックイン後、さっそく露天風呂へ。雪山の中ですっぱだかになり、お湯に浸かる。良い湯加減だ。 狭い湯ぶねに硫黄臭の乳白色の湯が沸いている。開放感120%、隔てるもののない大自然の中だ。硫黄岳の岩峰が目を引く。すぐ隣に川が流れてるが、あちらは冷たいのだろう。
本沢温泉では「夜間の入浴は禁止です」と注意を受けたが、星を見ながら入ってみたいと思う。
お湯から出ると周りは氷点下、当然寒いのだが、面白いのはあっという間に体が乾いていくことだ。低湿、低気圧で、体を一ふきすればすむ。タオルがなくても困らない。

今日は満月だ。その上かなり曇ってきた。星の写真は撮れそうにない。 残念でもあるが、落ち着いて眠ることができる。 酒呑みながらおかゆ作って、まわりの登山者としゃべる。こういう時間も好きだ。山登りにきているおじさんって面白い人が結構いる。 その後今度は内風呂入って就寝。

2日目。雪が降っている。 177の天気予報を聞いてみると、今日は晴だが、朝晩は雪の可能性あり。山の上のほうだから降りやすいのだろう。
さてどうしよう。この天気ではどうせ上まで登っても何も見えないだろうが、一つ山頂を踏んでいきたい。冬季の森林限界上のピークを登れるというのは、僕にとって新しい実績になるだろう。 本澤温泉から登れる山は、天狗岳と硫黄岳がある。どちらもここから2〜3時間。天狗岳は登ったことがあるが硫黄岳はない。他の登山者に話を聞くと、稜線上の風は猛烈らしいが、天狗岳のコースのほうが風にさらされる区間が短いようだ。

8時、白砂と名付けられたコースから天狗岳を目指す。 トレースも確認できるし、道標も整備されている。迷う心配はないだろう。雪は積もっているが、せいぜいかかとが埋まる程度。歩きやすい。 雪の針葉樹の森の中、絵に書いたようなホワイトクリスマスだ。

稜線へ出る。噂どおり、ものすごい風だ。立っているのがやっと。突風と呼びたいのだが、ずっと吹いているのでそう呼んでよいのかわからない。
これが僕にとって冬季の稜線の初体験と言えるかもしれない。未知の領域だ。しかしきちんと対応できている。風は冷たいが全身の寒さは感じないし、歩けば前に進む。行動半径を広げていくことができる。


眉毛も凍る
10時、天狗岳登頂。視界はなく、風は強い。何も見えない。 記念写真とって、早々に下山する。頂上踏めればそれで良い。肝だめしのチェックポイントと同じだ。 同じコースを下山する。

11時、本澤温泉。カレー作って食べる。
12時、出発。稲子温泉へ向かう。昨日とはうって変わって、道はうっすらと雪に覆われている。人が通ったところだけ下の落ち葉の層があらわれ、基本的には歩きやすい。が、小川の側ではつるつるに凍ったエリアがあり、閉口した。アイゼンは使わないだろうと思って奥のほうにしまってしまったのは失敗だった。

14:30、稲子温泉。入浴する。 本澤温泉は山上の秘湯だったが、こちらは山奥の秘湯といった風情。お湯をうめるのが水道水ではなく、渓谷の水(硫黄臭のある炭酸水。コップがあるので飲んでみたらびっくりした)なのが好ましい。
入浴後、駅までの交通機関が問題になってくる。バス路線は11月ごろまでのようだ。旅館の送迎バスはあるにはあるのだが、今日はもう行ってしまったらしい。 こちらは一人客なので頼むわけにもいかないし、タクシーを呼ぶのも嫌だ。せっかく風呂入ったのに車道歩き(1時間半くらい?)は嫌だなぁと思っていたら、運良く旅館に出入りしている地元の業者のおじさんが乗せてくれることになった。ありがとうございます。
冬季は公共の交通機関で移動するのが難しくなってくる。そのあたりの対策を考えなくてはいけないな。


小海線クリスマス車両。小学校の学芸会のようなローカル線の雰囲気がたまらない

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