自転車旅行記 自費出版
本のほうが読みやすいぞ

九重山・久住山

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2003年 5月31−6月1日

旅に出る。
あるいは旅の計画を練る。その際、時間・天候・金銭的な制約などから泣く泣く捨ててしまったプランが旅を重ねるごとに増えていく。そうした、いわば出会えなかった一期一会がまたこの地へ来ようとの意欲になるわけだが、九州の名峰、九重山もその一つだった。
昨年泊まった砂浜 奈多八幡 昨年の夏、自転車旅行に来たときは別府から国東へ抜けてしまい、社会人となって次はいつこられるだろうと思っていた。

チャンスは思いがけずすぐにやってきた。大分での2ヶ月間の新入社員研修が唐突に決まった。まさかあの時テントをはった砂浜にこれほどすぐに戻ってくるとは、人生何があるかわからない。 だがいつだって問題になるのは時間で、ようやくにして回ってきた連休の天気予報は台風直撃、のち晴れ。 台風一過の荘厳な朝焼けが見られるか、あるいは土砂崩れ、道迷い、ズブ濡れか、禍福の振幅の激しい山行だ。

この計画に同期入社の3人がついてくることとなった。このようなグループ登山は、僕には初めてかもしれない。 台風の進度によって、3つのシナリオを用意した。

@台風が早々に立ち去った場合。雲が開けていく中を快適登山。
Aそれほど天気が悪くない場合。とにかく山小屋を目指し、2日目に期待。
B台風が居座った場合。ふもとの温泉で酒を飲んで寝る。

登山当日。予報どおり早朝に台風の中心は四国方面へ抜けた。あとはどこまで回復するか。
しかしバスで移動しても雨は上がらず、露天風呂で長湯をしても霧は晴れず、団子汁を喰らっていても風は止まない。天候は時速50kmで良くなっているはずだが、どうやら今日中の回復は望めないようだ。

さて、どうするか。
レインコートはあるものの、万全な雨対策はなく、リュックや靴に不安が残る。それでも僕一人ならどうにかなるだろうが、昨日今日山行を決めた他のメンバーはさらに貧弱な装備だ。 だが、わずか2時間の簡単なコースで、着いてしまえば温泉付きの山小屋が予約してある。みな中高年登山者とは違う体力を持っているはずであり、きちんとリードしていけば問題ないだろう。

13:30ごろ、登山口を出発。
道は緩く登っている。そしてぬかるんでいる。雨は降っているのか止んでいるのか。たっぷりと水を含んだ木々の下ではどちらも同じことだ。傘を差しているものもあったが、まぁあまり意味はない。
みな初めのうちこそ水たまりの上に顔を出した岩の上を選んで歩いていたが、そのうちにどうでも良くなる。ある一線を越え、肝がすわる。結局、ドロだろうが川だろうが、もともとの登山道を男らしく突き進むのが正解なようだ。

靴下が浸水し、指の間に冷たい水が入りこむ。泥にはまり、靴が脱がされそうになる。雨が顔をぬらす。ドロで勇ましく化粧をする。そのたびに奇声をあげ、叫び、歌をうたう。
奇妙なハイテンション。子供のころと変わらない。何か本能的なものが刺激されて、不思議な楽しさがある。
逆にいえばこのような状況では、明るくいかないと大変つらいだろう。この悪天にもかかわらず、多くの登山者とすれ違ったが、彼らはもう少しうんざりした顔をしていた。

やがて道は池のある峠を越える。付近の展望は開け、花は咲き、天気が良ければさぞ気持ち良いのだろうが、この日は大風と濃い霧が迎えるのみだ。あいかわらず大地は粘性流体と化している。

下りに入っても、ぐにょぐにょしたどろんこ道。川と一緒に下っていく。 これほどちゃんとした雨登山も初めてかもしれない。

盆地に入り、簡易的に舗装された道になると小屋が近いことがわかり、霧の中から法華院温泉山荘が出現した。
山小屋があると安心だ。着替え、服の乾燥を済ませ、九州最高峰の温泉で体の芯を抜く。 冒険、温泉の後はビールで乾杯。これが義務であり、権利である。

この山は日帰りで登ることも可能だ。それなのに何故わざわざ悪天の中を登り、泊まるのか。 小屋に泊まり、山の夜の空気を感じるとそこに答えがある。 おいしい食事のあとは歓談、就寝。素朴な山の夜だ。

2日目。坊がつるの湿原にはまだ雲が溜まっているものの、ときおり青空ものぞいている。
ゆるりと仕度を整え、まずは中岳を目指して出発。
一歩登ると雲を越える。青空が広がる。緑は輝き、ミヤマキリシマは鮮やかだ。写真で見た印象ではツツジそのものだったが、実際に見るともっと可憐な大きさだった。花と新緑の時期に山にくるのも、もしかしたら初めてかもしれない。 道は昨日とはうって変わって歩きやすい。登山はやっぱりこうでなくちゃ。

稜線上に出ると、やはり風が強い。 急登を経て、九州最高峰中岳へ。池、白煙を吐く峰、登山者の行き交う稜線が見渡せる。
先春、ニュージーランドへ旅行した際、彼の国の山々の美しさに驚かされたが、わが国の山も負けていない。この山域も別世界の美しさを持っている。

池の小屋の裏手で風を避けつつ弁当を食べたあと、この山群の盟主、久住山を目指す。 途中の池では大風が水面に独特な波紋を刹那的に作っていた。

久住山では、まず人の多さに驚かされた。この山の上のどこにこれほど多くの人の供給源があるのだろう。 頂上につくと、これまでの岩と雲と草原の世界から、麓の集落、牧草地と足元からそこへ延びてゆく広い裾野へと世界が変わっていた。青く霞んだ空気の向こうには、かすかに阿蘇山らしき山影が確認できる。

温かい岩の上で日向ぼっこ。同行者たちは、一人では来ないだろうが来て良かったと言う。僕は一人でも来ただろう。気の合う仲間とワイワイ登るのはもちろん楽しいことだし、一人で登って撮影に集中したり、他の登山者と話をするのも悪くない。単独だろうがグループだろうが、山の雰囲気を味わうことはできる。どちらにするかは僕の場合、プランニングのしやすさで決まるのだろう。
山頂ではカラスが大風に乗って滑空をしていた。きっと彼も山が好きなのだろう。

下山は西千里浜と言う日本庭園のような道をとった。もっとも庭園のほうが深山幽谷のまねをしたはずであり、形容の仕方が逆なのかもしれない。
登山者は多い。自分のペースで歩くと言っても、多くの人は大体同じペースだ。顔をあわせる面子もだいたい同じ人々になる。標高が下がってきた影響か、風は穏やかになり花は一段と鮮やかだ。

やがて牧の戸峠に着き、ソフトクリームを食べる。そこからは山の上とは思えないような接続のよさで由布院、別府とバスで移動し、温泉・ビールで締めた。

初日は悪天だったにもかかわらず、多少だましてつれてきてしまった感のあるほかのメンバーも十分楽しんでくれたようだ。多少でも不満を言われると計画・立案・責任者としてつらいところだったが、中には初日のほうが楽しかったなどとのたまう輩も出る始末だ。
僕自身も大変楽しめた。しかし夕日や朝焼け、星ぞらも見れなかったし、ピンク色にそまった大船山も行かなかった。またやり残した宿題ができてしまったわけだが、これをやるのはいつになるのだろうか。

(写真提供は主に山本君。ありがとう)


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くじゅう法華院温泉山荘  九州では数少ない山小屋。

九州横断バス  交通の便は悪い。別府方面からはこれが便利だった。予約はなくても平気。

高速バス  このバスの存在は今知った。便利なのかもしれない。


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