充足



Amazing! Fantastic! How beautiful!
いや、英語のボキャブラリーにうとく、単純でおおざっぱな形容詞しか思いつかないな。


すげー。超きれー。
日本語だとこのように機微を伝える表現が取れる。本当に圧倒されるような景観を見たときって、単純な言葉しか出てこない。これを書いている今は少し時間がたって、振り返りながらなので言葉を並べるが、直面していたときは おぉ、とか おぉーっ とか、うおおおぉー とかいった感嘆しかでなかった気もする。せいぜいすげーっ、と叫ぶくらい。すごくきれいなのか、すごく神々しいのか、すごく感動しているのか、すごく何なのかはわからない。とにかくすごく○○だ。

昨日の昼間はズボズボ足を埋めて歩いた場所も、朝はカシカシに固まっている。アイゼンはいて歩けば、雪のある場所ならばどこだって飛ぶように歩ける。
それを利用して、暗いうちから小屋の裏にあるMt.Olliverへ登った。エベレストに初登頂したサー・ヒラリーが初めて登った山らしい。ヒラリーが初登頂したのか、ヒラリーにとっての初めての登山なのかは分からないが。ミューラーハットもヒラリーが設立したようだ。
小屋からはほんの100mほどの標高差だが、勾配がきつく、狭い稜線のため緊張する。山頂の感動の朝日。

昨日テカポを発って以降、完璧なタイムスケジュールで行動している。山登りに大しては安全上必要だからということもあるが、それ意外のことも含めて、意図した計画、予想した時間どおりに実行している。
星の写真も、興奮して一晩中撮るということもなくなった。月の出る時間、薄明の始まる時間を考慮に入れて、一番撮りたい時間を生かせるように休憩を取ることができたと思う。

しかしこれは天気に助けられた面も大きい。NZに来た一番の目的が、「ミューラーハットに泊まって星の写真を撮る」である以上、晴れているときに泊まらなければならない。したがって計画にはある程度幅を持たせ、2,3日なら天気を待つつもりだった。
それがこのように連日快晴。もっとも無理のない計画が、お空の都合にもベストマッチ。これはとても幸運なことだろう。たとえば富士山と比べて、マウントクックが格段に晴れやすいということはまずないだろう。春先に富士山が一日中雲に隠されないという日が何日あるか。
前回ここに来たときもきれいな晴天が続いた。よほどこの山にひいきされているらしい。


充実感に満たされて下山。登るときは雪のないところを選んでいったが、下るときは雪のある方を好む。フカフカの雪の上に足を出していけば、疲れないし恐くないし気持ちがいい。日差しは強いので、少しぐらい雪にうまって丁度いい、海水浴のようだ。雪の山だから、山雪浴か。

無風。無音。雲一つない。何も動くものがない。せいぜい羽虫のたぐいがぶーんとかすかにいうのと、遠くのほうで溶けた氷河が川になって流れる音が聞こえるくらい。
その中でマウントクック/Aorakiが氷河湖をたずさえて、どーんとそびえているのと対面している。何だか信じられない。確かに大きく存在しているのだが、何だかあまりにもできすぎた光景で、現実問題として認識できない。
急な斜面が続くが、疲労は少ない。しかし幸福のあまり、しばしば足が止まる。


本当に素朴な味だった。

夕方、再びテカポの旅人の宿屋へ。カメラ類の電池、体の汚れ、洗濯ものなどを回復させた。


夕日を見ていたらお店の閉まる時間になってしまったので自炊。手持ちの現金も少ないしな。
ありあわせっていっても今日スーパーで買ってきたものだが、どうしても調味料が足りない。
鶏肉とマッシュルーム買ったのでスープとステーキを作った。
特に塩分が足りない。しかたがないので機内食の塩コショウ使ったり、チーズ入れたり、ほんのちょっとだけ残ったワイン入れたり、フリーのドレッシング使ったり。
食えればいいやと思っていたが、けっこうおいしかったのでびっくり。スープたくさん飲んで、ビールたくさん飲んで、登山で水分を失っているであろう僕の体には良かったのではないか。

(2005/10/26 Aoraki/Mt.Cook-Tekapo)