Mueller Hut


今日も早置きして星の写真を撮る。
明るくなったら飯を食い、荷物をまとめる。そしてDOCへ寄って山小屋の宿泊の予約をする。すべて予定どおりに行動している。

NZの山小屋の運営システムは、とてもよく出来ている。まず小屋へ行く前に、届けを出して金を払う。DOCというのは環境庁のようなものらしく、小屋や道の管理をやっているらしい。届け出を出すといろいろアドバイスがもらえる。で、下山したら下山届けを出す。下山届けが出されないと捜索が始まるというので、出し忘れると大変らしい。管理といっても、規制しているわけではない。届け出といっても、お上にうかがいを立てるというよりは、応援してくれるという印象。ミルフォードなどの人気コースでは人数制限をしているが、そういう規制は必要だと思う。
日本の山だって登山届け出すことにはなっているが、ここまできちんと管理していない。僕も出さないで登ってしまうことも多い。NZのような管理体制があれば遭難対策にも環境保全にも有効だと思うのだが。


で、山登り。すべて順調。
高気圧がこの付近を支配している。絶対君主制を敷き、ガス、雲の如き不届きな輩は姿を隠し、我々民草は安心して登山が出来る。願わくば長期政権であらんことを。

セアリーターンズまではトラックと呼ばれる、手入れの行き届いたところだ。かなり急ではあるが子供や老人でも登ってくる。急な登りが続き息もあがるが、それよりも景色に圧倒されてため息が出る。

ミューラーハットまで行く(帰ってくる)人とそうでない人は、格好を見れば大体わかる。向こうもこちらがそうだと分かる。大体分かるが、彼らはいちいち尋ねてくる。そうだ、ミューラーハットまで行くんだと答えると、GreatとかWondefuとか Enjoy yourselfとか言いながら去っていく。満足そうな目つきで興奮しながら。
昨日の一日がよほど素晴らしかったらしい。僕も明日はあんな表情で降りていくことが出来るだろうか。

セアリーターンズ、池のほとりで大休止したあと、道はルートと呼ばれるようになって、もう少し難易度があがる。が、これは比較の問題であって、標識はちゃんと立っているので地図とコンパスとにらめっこしなくても道を失うことはない。それほど登山経験のない人でも来れると思う。

心配していた雪は、かなり少ない。10月下旬を北半球に換算すると4月下旬、目的地は標高2000m弱、日本よりも緯度が高いので少し補正して、GWに標高2500m程度の八ヶ岳に登るくらいのことを想像していたが、それよりもだいぶ楽なのではないかと思う。まぁ雪の量なんて年によってだいぶ変わるだろうが。
とはいえ、最後のほうは雪が積もっていた。標高差にして100mくらい、全行程の1割ほど。
そうなるとやっぱり苦労する。急な斜面、足は埋まる。四つんばいになって登っていく。幼いころ、祖母の家の急な階段をこんな感じで登っていた記憶がある。

アイゼン、英語で言うところのクランポンはなくても登れる。持ってきたが使わなかった。所によっては膝まで雪に埋まるため、しっかりした登山靴とスパッツはないと辛いだろう。出発前にDOCでステッキを購入したが、大変役に立った。ミューラーハットまで約4時間だった。



辛すぎて食べられないということで分けてもらったが、結構うまかった。唐辛子は控え目にしておいた。

窓の外のこんな景色を見ながら。

現在、昼飯食って昼寝して日記を書いているところだ。早い時間に一日の行動を終えると、満たされた午後をすごすことが出来る。
空の高層ににはうっすらと白い雲が出てきた。今夜の星は大丈夫だろうか。空一面が夕日で真っ赤に染まるような雲なら歓迎できるのだが。朱く染まった後に、空が暗くなるとともにいつのまにか雲が消え、満天の星空が現れる。そうなったら一番良い。



そうなった。雲はそれほど赤く染まらなかったが、マウントクックが赤く染まった。小屋からは隣の山に隠されるため、夕日は見えない。もしかしたら下のほうは染まっていたのかもしれない。

今日の宿泊者は僕を含めて二人。もう一人はクイーンズタウンに住む、Jamesというおじさん。
人なつこい笑顔を見せる、典型的なKiwiの美徳を備えた人のようだ。この先にあるMt.Annetteというところまで行ったぼうけんたんを、宿帳に書き綴っていた。

日が沈むと空は星の世界に支配される。その素晴らしさは文章で書いても表現できないので省略する。


写真はせっかく撮ったので省略しないが、表現できるかどうか

(2005/10/25 Aoraki/Mt.Cook)