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昼食後、Aoraki/Mount Cookへ向かう。100km強だが、その間は荒野と美しい湖があるだけなので、1持間ちょっとで着く。途中Twizelという町によって買い物。今日はNZの勤労感謝の日ということでやっているお店は少ないが、スーパーくらいならやっている。(昨日空港よって両替しておいて良かった。昨日も今日も銀行は休みなのだから)
マウントクックでは、前回と同様キャンプ場に宿泊。村のユースホステル泊まるよりも、ここのほうが山登にも星見るにも便利だ。
テカポ湖も、マウントクックも、2年半前に来たときは、もう死ぬまで来れないかもしれないとも思っていた。赤道の反対側のさらに僻地だ。しかしこのように、意外と簡単に来れてしまっている。2回目となると、半分くらいの労力で来れる。
長い人生だ。一回しか行くことができないところなんて、存在しないのかもしれない。それが世界中のどこであろうと。NZでも小笠原でもヨーロッパアルプスでも。
しかしいつどこで何があるかなんて、本当にわからない。
NZ、特にこの南島の大自然の観光地はとても治安の良いところで、昨日同室した人によると殺人事件など起ころうものなら新聞はしばらくそれ一色、日本との扱いの差に驚いたようだ。人々はみな親切、大自然にも危険な動物は皆無、僕は二度目で慣れてきたし日本人も周りに多い、英語も通じる。
そんな好条件下でも、些細な所に落し穴が潜んでいる。
夕食前の軽い散歩。地図を見ようと、ポケットから取り出した。同時に、カラカラカッシャーン。
それだけ。
えーと、何か落としたな。何かって言うと、あ、車の鍵か。ん?やばいぞ。
落としたら拾えば良いのだが、今立っているのは、大きな岩がごろごろ転がっている岩場の上だ。その岩と岩の隙間の間に、鍵が落ちていった。音から判断するに、ある程度の深さまで落ちていった。自分の立っている足もとから数十センチほどではなかろうか。
「車の鍵を落とした。」
強盗にあった、置き引きにあったに比べると、地味ではある。しかし地味ながらかなりの破壊力を秘めている。
僕は現在、寝袋、食料、調理用具とともに旅行しており、必要なものはすべて自分でまかなえる。今日もそういう生活をするつもりだった。しかしその道具はすべて車の中、それがなければ氷河のほとりのサル一匹、かなり惨めな状況になる。
車はさすが1日60$、最新のセキュリティが施され、鍵がなければ中のものを取り出せないだろう。
鍵を見つけるしかないようだが、それはとても難しい。無数にある数cmの隙間の、どれくらいふかくにあるかわからないし、見えるところにあるかどうか。テトラポッドの隙間へ潜り込み、海中にいるカニを捕まることはできるか。じゅうたんの隙間に奥深く潜り込んだ一粒の砂金を探し出し、太い指で拾いあげることは出来るか。
もう日は沈み、だんだん暗くなってきている。あと30分で見つけなければアウトだ。考えれば考えるほど、事態は深刻なのだということが身にしみる。
まぁ鍵がなくても死にはしない。明日レンタカー会社に電話して、予備持ってきてもらって罰金払えば良いのだろう。今日の宿は、1時間ほど歩いて村まで行って、YHAあたりに何とか泊めてもらう。
しかしそんなことしていると、諸手続きをするのは二日くらい、数万円くらいだろうか。でもそんなことをしているうちにこの空は曇りだし、その間は何も出来ずに休暇は終わる。今回も与えてもらった好天、幸運を殺してしまう。ここまできたのがまったくの無駄足になる。
結果だけを書けば「鍵をなくしたが、数十分かかって発見できた」というだけの、とるに足らないできごとだ。だが本当にそれは紙一重の結果だ。あと1cm隙間が狭くても、あと3cm鍵が深く落ちていても、取りもどすことは出来なかったと断言できる。逆に隙間があと5cm狭かったら、深く落ちずに一瞬冷や汗かいただけだったかもしれない。いや、今回もなんとか幸運のサイドにいつづけることはできたようだ。
いやまったく恐い。僕はかなりそそっかしい部類の人間だが、今回の発端は比較的些細なものだと思う。些細なミスなんて、減らすことは出来るが、0にすることは不可能だろう。
でも些細なミスでも命取りになることはある。それをフォローすべく、あきらめずに謙虚に冷静に対処するしかないのだろうが、それでも対処できないときなんてザラにあるだろう。いや本当に恐いね。恐い恐い。
脱力してワインをすすった。適当につまみあぶりながら。
(2005/10/24 Tekapo-Aoraki)
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