2008年5月3-5日
雪山に登ろう。
道具も揃った、そこそこ経験もつんできた、となると、次に出てくる問題点は登山口までのアクセスである。多くの山では、秋になって雪が積もり、山小屋も閉めると、バスも運休する。その状況で雪山に登ろうとすると、登山口まで一日かけて歩くとか、車にチェーン巻いて寝不足+雪道の運転を余儀無くされるとか、登山を躊躇する理由が増える。
それが解消されるのがゴールデンウィークだ。小屋も始まりバスも出る。日は長い。残雪は豊富で締まっている。
ゴールデンウィークは、小笠原でカヤック漕いでいるのも悪くはないが、雪の山を見に行くにも良い時期だ。
人混みは避けたいし、天気や都合に合わせて柔軟な計画にしたい。予約や手配は何もしないかわりに、テントと食料持って自分の要因のみで行動することにする。
さぁ3000m峰を目指して出発だ。
目指すは燕岳。積雪期でも、小屋があるので安心。少なくても小屋のスタッフは行き来してるはずだ。確実にトレースは期待できる。
燕岳から大天井岳方面は、表銀座と呼ばれる、槍ヶ岳を目指す縦走コース。今回は槍ヶ岳までは行かないが、大天井岳から常念岳までは行けそうだ。さらに、蝶ヶ岳から上高地へとルートは続くが、よほど気分が良ければそこまで行くかもしれない。
荷物は増える。アイゼン、ピッケルなどの雪山道具に防寒具。テント、寝袋に炊事道具。食料。
そして撮影道具。今回は中判カメラとデジタル一眼一つずつ、三脚でかいのとこまいの。レンズは2本、中判用とデジカメ用1本ずつ。
ま、確かに重いが、これらをかついでも行動できるわけだ。どこにでも自分の好きなところまで入り込んで、一晩写真撮るための道具。
雪山+テント+中判カメラ。自分のやりたいことの中で、一番荷物が重たくなる条件。重くて大変ではあるが、これ持って行動できれば、やりたいことはだいたい可能だ。まあ満足感もある。
関東を離れるころは、雨。
一見、天候に合わせて行動していないようであるが、予報から、北に行くほど天気が良いことが分かってる。これから行く場所が、行く時間に晴れていれば良いのだ。限られた晴天を生かすには、天候が回復する前に出発した方が効率的だ。
電車が甲府盆地に入ると雨が上がり、松本盆地にさしかかれば青空が広がってくる。移動していることを実感する。
GWなので、車外の風景は春。花も咲けば新緑も美しい。
なぜ新緑を見て美しく感じるか。僕の脳みそは情緒がなく、即物的で唯物的な考えをするので、新緑には可食部が多いからそう感じるのではないか、と結論づける。新緑→おいしそう→美しい。
これから登る山々のことを想像する。裾野から下、中央線が走るような下界までは、色とりどりのパステルカラー。そして標高を上げるにつれ世界は白銀に変わっていき、槍や穂高は岩と雪で神々しく、その上の空はどこまでも青いはずだ。
そんなような鳥瞰図に自分が入っていくところをイメージしていく。
登山口の中房温泉、ここまではバスで入る。
このあたりもまだ雪はない。
バスが運行されるのはGWからだが、それ以前は1日かけて歩いて行くか、雪が消えていればタクシー使えるのかもしれない。
燕岳までの道は、急ではあるがよく整備されている。雪があってもそれは変わらない。
水場のある第一ベンチ、このあたりから雪が出てきた。
第二ベンチで大休止。上から下りてきた小父さんとしばし談笑。上の状況などを聞く。GWのこのあたりの雪の状況は日によって変化が大きいようで、雪がまた積もったと思ったらどんどん溶けていく。上から下りてきた人達は、前日との変化に驚いていた。
第3ベンチでアイゼンを装着。富士見ベンチは雪に埋まったためか、見当たらなかった。
道は歩きやすい。登山者も多い。
天候も良く、不安はまったくない、のんびりとしたものだ。
別に雪山登山っていっても、知らない人が想像するような危険で孤独なものだけではない。装備がちょっと増えるくらいで、けっこうピクニック的な雰囲気だ。
合戦小屋を過ぎたあたりから、樹林帯が切れて展望が広がる。もう一頑張り。
早く着いたら大天井岳まで行ってしまうという野望もほんの少しあったが、まぁまったく無理な時間。
特に不安も冒険もなく、荷物多くて疲れたなぁという感じに小屋に到着。
この小屋から稜線上につくことになるので、景色がガラッとよくなる。
やっぱりGWなので、小屋の前も人であふれている。
とりあえずテント設営。稜線上は風に吹かれ、一部地面が露出している。皆雪の上に張っているのでそれに倣ったが、張り綱を多用する僕のツェルトは、他の人の自立型テントに比べて不利な気がする。
ここから燕岳頂上を目指すならば、30分くらいの行程。夕飯前に往復してきても良いが、雲が出てきた。行かなくてもいいや。
雲に巻かれ、日が差し、雲に巻かれる。一瞬、槍が見えたり夕日が見えたり。
ここのところ出張続きだったし、昨日も睡眠時間は少なかった。今日も疲れた。
何も考えず、ぼーっとしながら、テントから顔を出してそんな様を眺める。
今日の天気予報は良かったから、この後に星空が広がる期待はできる。でも今回は2泊、無理すれば3泊できるので、別に今夜晴れなくてもまたチャンスはある。
夕日の時間は、特別な時間だ。たぶん、気象学的にもそうなのだろう。
熱源となる太陽が姿を消し、暖かい空気と冷たい空気が入れ替わる。風が吹き、凪になり、山の上に雲が出て、消える。夕方は、けっこう劇的に変化する。
今夜もやっぱりきれいに晴れわたってきた。
具体的なメカニズムは分からないが、夕方前にガスってきたかと思ったらきれいな夕日が見え、やがて静かな星空になっていったのは、そういう1日の変化のあらわれなはずだ。
→他の写真
晴れてきたらのだから、三脚もってウロウロと写真を撮り続けることになる。
想像以上に暖かく、0℃を下回らないので、寝袋に逃げ込む必要がない。
表銀座の雪峰、安曇野の夜警、小屋とテント村の灯明と見所は多く、やっぱりほとんど徹夜になってしまう。そのわりには失敗写真が多いのはどういうわけなんだろ。
快晴の一日が始まる。
安曇野のたんぼに水が張られた。下界での田圃は山を映すが、山から見下ろせば朝日を反射させる。
さて。今日はどうしようか。
とりあえず南方面、大天井岳までは行こうと思う。1日の行程としては短すぎるが、大天井岳は景色が良さそうだ。なんならそこで1泊しても良い。
普通の日程なら、常念小屋まで行くのが標準コースだ。そこまで行ってしまった方が明日の日程は楽だ。峠にあるが、たぶん展望もそんなに悪くないだろう。常念小屋まで行っても良い。
とにかく、食料もテントもあって天候も良い。連休もまだ続いている。どうにでもなるはず。
完璧に完全に快晴。
常に槍ヶ岳を右手に見ながらの表銀座縦走。ダム湖の向こうの五竜岳も格好良いぞ。
蛙岩。
細い穴が登山道になっている。
なかなか無茶な姿勢での通過を要求される。
表銀座コース、登山者も多く難所も少ないコースだから、もっと楽なのかと思ってた。
だが、なかなかつかないぞ。大天井岳は見えていてなかなか近づかない、遠近感が把握しにくいが、これは相当大きい山なんだな。
一度はまると厄介
今日は暖かい。松本では28℃まで上がったことをあとで知ったが、雪も溶ける。
ハイマツや岩場の上に積もった雪も不安定になってきていて、そこいらに天然の落とし穴ができている。トレースはしっかりついているので、そういう落とし穴も先人たちがハマってくれてはいる。気をつけて足跡をおって行けば良い。
でも、荷物は重いし気温は上がってくるし、僕にもその番は回ってくる。落ちる時はけっこうダイナミックに落っこちて、不意に足一本くらい、腰のあたりまで雪に埋まる。はい上がろうともう一本の足を踏ん張れば、やはりその足も埋まって行くし、埋まった足は雪に固められて、けっこうどうしようもない。
ひざを使ったり、寝転がってもがいたり、雪にぬれて脱出する。疲れるが、捕らえ方によっては楽しいと言えなくもない。
荷物が重いためか、睡眠不足のためか、運動不足のためか、空腹のためか。
とにかく、大天井岳にはけっこう苦労して登頂。
今回のコースの最高地点だ。あとは基本的に下りの道、大半の苦労は終わった。
槍ヶ岳に穂高連峰、北アルプス北部の山々にぐるっと囲まれて大休止。
大天井岳の冬季小屋。
室内は雪に埋まって暗い。
あんまり使われていない雰囲気だった。
使用料は1000円とのこと。
小屋の前でも大休止。おかゆらしきものを作った。
今回のコースは山小屋の営業も始まり、それに頼れば荷物はもっと減らせる。
が、今回は3日分の食料をかついできたため、消耗品をまったく山小屋に頼らなくてもなんとかなる。
最初は小屋でビールや食料くらい補給してもいいかなと思っていたが、どうせならば無補給で行くことにする。身軽なおばさん登山者たちを横目に見ながら、やや乏しくなってきた食材をやりくりして。
大天井岳までは、前後にたくさんの登山者を見ながら歩いたが、昼寝をしていると、とたんに静かになる。燕から常念まで、けっこうな人数が歩いているが、ほとんど皆同じ時間割で歩いているようだ。たしかに安全のためには早出早着が原則で、皆それを守るために早朝出発でまじめに歩いてそうなっているのだろうが、まじめな人ばかりなんだな。
登山者が多いのかと思ってたが、小さな領域に密集して移動している、という状況のようだ。
時間的には少しくらい余裕あるんだから、もうちょっとばらけていたって良いと思うのだが。
人混みも減り、体力も回復してきた。道も下りに入った。だいぶ気持ち良く歩けるようになる。
雪山の下り、これは本当に楽しい。下りであれば、多少足が雪に沈み込んでも、そのままのスピードでなんとか突破できる。雪がクッションになってくれるので、真一文字に駆け降りて行くことができる。
スキーはいてるみたいに、目に届く限りが僕の行動範囲になる。実際スキーはいてりゃもっとすごいのだろうけど。
雪はどんどん溶け、靴もぐちゃぐちゃ。
アイゼンは効いてないんじゃないの?と思っていたが、金具が不調になって外してみると、すべって結構こわかった。やっぱり必要なようだ。
常念小屋についたのは16時ごろだったかな。
大天井岳からは割と容易だった。
テント泊だとやらなきゃいけないことは多い。
目的地について一息入れる前に、そのためのスペースを作らねばならない。
着替えるにしても、お茶飲むにしても、まずはその空間を整えることからやらないといけないのだから面倒だ。それを、体が冷えないうちに、日が暮れないうちに準備しないと行けない。
まぁしかし、テント張るのに時間かけたって、所詮一晩眠るだけ。しかも晴れれば、まともに眠る時間はあまり無い。結構テキトーにテント設営。
天候は昨日と逆パターン。
完璧に晴れていた空が、夕方が近付くに連れ雲に覆われていく。昼間暖められた空気が雲を作ってるのだろうか。
なんだか、星が出るほど晴れる気がしない。
ゆっくり眠る時間ができたわけだが、これならばもっと快適なところに張ればよかった。
テント泊、僕の緊急避難用簡易テントは特に、そんなに快適な環境じゃない。
狭いし、寒いし、濡れるし。
でもやっぱり、大自然との距離が近いことは良いことだ。
寝袋に入りながらちょっと顔出せば、星が出てるか確認できる。
一瞬だけ晴れた。
寒いはずの雪山の夜でも、顔と腕が熱い。
今日一日の太陽の光をぜんぶ、雪の反射で上からも下からも浴びていたからな。
そしてそれに対して難の対策もしなかった。
日に焼けるのはきらいじゃないが、これはかなり非道い火傷だ。先が怖いぞ。
まぁしかし、冷媒はそこら中にある。雪で冷やし、氷で冷やし、風で冷やす。
火傷の標高3000m療法だ。
かじかんだ手も、濡れた靴下も、暖めることができて便利ではある。
3日目。今日は下山する。
濡れた靴も乾いていないし、雲が出てきて展望も無いし、早く温泉でも行きたいところだ。
その前に、常念だけの頂上くらい踏んでくるか。
小屋からは標高差400m、けっこう急な登りではあるが、荷物を置いてきたので、あっさり登れた。
都合の良いことに誰もいないぜ。
セルフタイマー使って、ジャンピング写真に挑戦だ
失敗
失敗
また失敗。タイミングはつかんでるんだけど
成功
さて、下山。雪のあるところは、転がるように高速で下山。
常念岳から大糸線方面には、二つの下山口がある。小屋からは、一の沢林道の終点が近い。出発前にホームページで、林道崩壊か何かの情報を見た気がするが、特に問題は無いようだ。
交通機関は無いが、小屋からタクシーを頼んでおくことができる。
なるべくなら、一人でタクシーは乗りたくない。GWならば登山者は多く、誰かしら同乗できるだろう。が、一昨日おじさんに聞いた情報では、あらかじめ予約をしておくと、同乗相手が見つかってもタクシーの方から同乗を断られるそうだ。
タクシーの方としては、予約した客がいなくなってしまうのは困るのだろう。
最悪、駅まで歩くことを覚悟した上で、予約をせずに下山。
この選択が正解で、下山口では何人かの登山者に聞いて、滞りなく同乗者が見つかる。タクシーの運転士さんにも、「予約して無いのですね。ならばOKです」と確認を受け、スムーズに下山できた。
付近の山
地図上のアイコンをクリックすると、該当ページに移動します
:登山記
:今日のごはん
:自転車旅行記
ホーム
△次の山
△前の山
|