8/15 標高3000mの休日

今日は日曜。キリスト教、ユダヤ教では安息日に当たる。
あまり移動しないで、山の上にもう一泊しようと思う。ここにくるためにはるばる日本からやってきたのだ。えんえんと自転車こいできたのだ。一泊で下りるのはもったいない。

サンダルとペダルを登山靴に履きかえて出発。
ゆっくりと歩き、写真をとり、峠と池を回る。
もう一つ、近くに3200m峰がある。地図にルートとして書かれてないこともあり当初はいくつもりはなかったが、多くの登山者が向かっている。今日は天気も最高、荷物も軽い。行ってしまえ。
荷物が軽いこともあるかもしれないが、自転車のときよりも楽に標高が稼げる。それでもかなりの急登が続き、疲れる。道はたまに足場が悪いところがあるものの、多くの人が登るだけあって悪くない。これくらいのところなら登ったことがある。
稜線はフランス−イタリア国境となっている。もしかすると僕のイタリア第一歩はこのときに踏んでいたのかもしれない。とはいえ、別に稜線上に何かがあるわけではない。地図で見たからそう知っているだけであり、実際に歩いているときはただの山道だ。東京都と埼玉県の県境に何もないのと同じだ。

登頂。
頂上に登ってはじめてMonte Visoを見る。だけでなく、今まで下から見上げていた山々を見下ろせるようになる。これまで僕が通ってきた道と、これから僕が通っていく道を見渡せる。
はるか彼方のヨーロッパアルプスの白い峰が見渡せる。あれがモンブランだと教えてもらった。
Le Pain De Sucre. なんて読むのかわからないが、それが僕の登った山の名前だ。標高3208m。ヨーロッパアルプスの中では小結か関脇クラスなのではないかと思う。日本ではこれより高い山は富士山しかない。奥穂より高い。僕のこれまでの最高峰だ。

下山後、小屋に帰って昼食。昼寝をする。日記が溜まってきているが、安息日なのではかどらない。

峠を越えて、イタリア側にも小屋があるようだ。今日の宿はそこにしよう。

国境の峠。
パスポートチェックもなく、普通の観光地のように展望を楽しむ人々がうろうろしているだけ。EU化の流れなのだろう。考えてみれば国境なんて人間が作ったものだから、人間がとっぱらったって全然おかしくない。

イタリア側の小屋。望遠鏡が並んでいる。
聞いてみると、どうも宿泊できないらしい。周りでテントはるのは多分大丈夫だろうとのこと。
じゃあもうちょっと人が少なくなったらどっかでテントはるかなどと考えていると、やっぱり泊めてくれるということになった。
昨日の小屋とは様子が違うとは思っていたが、一般客に開放しているものではなく、現在は天文同行会が貸しきっている状態で、ベッドに空きがあるので一日ならば大丈夫だという。
だけどベッドは狭いよ。
It’OK.
僕たちは夜星見るから、うるさいかもしれないが、それでもかまわないかい?
That is good for me.

あぁ何という偶然。何という幸運。こんなところで話の会う人々に出会うとは。
なぜ山の上に留まるかといえば、星を見るためだ。
M31 天文を趣味にする人って上品な人が多い気がする。彼らはそんな人たちで、僕に対してとてもよく気を使ってくれる。出国以来、こんなにしゃべったのは初めてかもしれない。
夕食も一緒に、星も一緒に見る。彼ら同士は当然「ペッルラペーッラ」とべらんめぇ調のイタリア語で会話するが、僕に対しては英語になる。皆普通に英語で会話できる。何しろPh.D. Ph.D プロフェッサーと高学歴の最高峰の集まりだ。専門も、物理やら光学やら、ヨーロッパの宇宙開発事業団で働いているやら、仕事でも趣味でも星を見ている人々だという。
小屋の中に入れば紅茶を出してくれるし、外に出れば色々な星雲を見せてくれる。標高2500mで大口径の望遠鏡を使っているのである。淡い星雲も簡単に見える。

M31

キヤノンのマウントアダプターを持っているというので、望遠鏡に取り付けてもらって撮った。
僕も経験があるので知っているが、望遠鏡を持っていてもそれを扱うのは大変だ。設置して、極軸あわせて、ピントあわせて、広い宇宙のどこかにある目的の星雲を視野に入れる。
全部やってもらった。ぼくはシャッター押しただけ。餌をつけてもらって魚を釣るのと同じ。

さすがに眠くなって僕は2時ごろに眠ったが、彼らは一晩中星を見るのだろう。
星を見れたのももちろん素晴らしいが、見知らぬ人たちが僕のために居場所を作ってくれるとは、なんとまぁありがたいことだ。

agnello
イタリア側の小屋。後ろのでかい山がお昼に登った山。天文同好会のPaolaのページより
僕が登ったときはもっと天気が良くて花が咲いていたぞ。
Paolaのページはこちら 星の写真がたくさんある。Le foto del 2002というところに、小屋の雰囲気がわかる写真がたくさんある。

(2004 8/15)