象の越える山脈

遠い昔、アルプスを象とともに越えた軍隊がいたという。
いや、船を押しながらだったと聞いたような気もする。

それを率いたのがカルタゴの英雄、ハンニバル。戦った相手がローマ。
このことに関して僕の知っていることといえばこの程度だ。
これは好都合な話で、ハンニバルの戦記物でも読みながら旅をするというのは大変楽しそうだ。

このようなことを今後の旅行計画を考えているときに思いついてしまった。
ちょっと調べてみると、彼らはフランスの南海岸へ上陸し、やや内陸を進んだのちアルプスを越え、イタリアへ向かったらしい。海あり山ありの、自転車旅行のコースとしても魅力的だ。更に都合のいいことに、実際にどこを通ったかは色々な意見があるらしい。
ということは、僕に都合の良い峠を通ってしまえば、「ハンニバルの峠」を通ったといいはることができる。僕は歴史家ではなく旅人なので、正確な位置を知るよりも話のねたを増やすことのほうが重要だ。アルプス越えは簡単ではないだろうが、まぁ象(船?)にだってできるのだ。自転車でも可能だろう。
(残念ながらアルプスを越えたのは船ではなく象だったようだ。船が越えたのはコンスタンチノープルの丘、トルコ軍の話と混同していた)

取れる休みは2週間。自転車で移動するなら、1日100kmとしてまぁ1000km以内なら良いだろう。
このような計算で地図帖を開いてみると、ヨーロッパは思っていたよりも狭いことに気付く。普段見慣れているのは国別の地図のほうが多いため、だまされてしまっていたのだろう。


このような行程を行くつもり。電車を使うこともあるだろう。

というわけで、ニースからローマまでの、2週間の旅が決まった。
2週間というのは世間的には大変長い休暇らしい。だが自転車旅行をするとなると、不可能ではないが十分な期間とはいえない。(例えば5日間雨が降ったら致命的だが、そのくらい雨が降ることも十分考えられるだろう。)
日の出を見るチャンスが最大でも14回しかない。その前景となるのは青い海岸線か、白い山脈か、小さな石づくりの町並みか。そのうちの何回かでも、そういう景色に出会えるだろうか。

時間が限られている以上、やりたいことの選択と集中が大事だ。
シュノーケリングはするかもしれないが、美術館巡り、教会巡りなどはやらないだろう。
今回は登山靴は持っていくが釣り竿は持っていかない。三脚は持っていくが、水中ハウジングは持っていかない。全行程を自転車では行かない。ユースホステルに泊まるかもしれないが、基本的にはテントだろう。

現在出発の2日前。実験室と製図室を往復する日常からは、遠い異国の、青い海と白い山脈の中のテント生活は、まだまったく現実的なものとして感じられない。うーん、大丈夫だろうか。

準備がはかどらない。あぁ早くしなくては。

(2004 8/5)