2003 10/11-10/13 原宿にて開催した住吉浜写真クラブ(仮)写真展『Sun Live』に出展した作品です。

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一瞬を切りとる―写真はしばしばそう表現される。だがそれだけだろうか。

夜の写真には一枚に数分〜数時間をかける。フィルムはその間の光を蓄積しつづける。刻々と変わる夕闇の紅、星の瞬き、浮かびあがる町の灯り。その光の変化が一枚の絵に積み重なっていく。

一瞬だけが写真ではない。

山の上には町とは異質の時間が流れている。

沈む夕日に今日の晴天を感謝したあとは、もう人間の支配する時間ではない。ご飯を食べて8時には寝てしまう。登山者は町を下界と呼ぶことによって、そのような世界の違いを表現しているのだろう。 夜の世界を支配するのは、どこかにひそむ獣たちであり、空に輝く星たちである。

明日もきっと晴れるだろう。

この写真は3時間以上露出した。

理科の授業で習ったとおり、星は北極星を中心にして日周運動をしている。よく見ると、北極星も小さな弧を描いているのがわかる。1日に1回転、360度。3時間なら45度地球がまわったことになる。 星が動いたともいえるが、地球が動いたと言った方が正確なわけだ。その間、星は星で膨張運動をしている。

星が動き、地球も動く。それと同時にカメラも動いて、自分も動いている。

あの山を前景として、オリオン座が一直線に昇っていく。夜は明け始め、空は紅から濃紺への透明なグラデーション。そんな写真を撮りたい。

チャンスは何回あるだろうか。オリオン座が夜明け前に昇るのは年に一度、一月ほどだろうか。その中で何日間晴れて、それがたまたま僕の行ける日になるか。月のライティングを利用したいとなると、さらに条件は厳しくなる。 だめだったらまた来年。

ちなみにこれはおおいぬ座。その右下には、見ると長生きできるというカノープス(南極老人星)も確認できる。

寒い。ただひたすら寒い。 星を見ているのって最も寒さを味わえる行為の一つだろう。深夜の山の上、尖った空気の中、じっと空を見つづける。運動をせずに露出時間がくるのを待ちつづける。食べ残したおにぎりは凍り、カメラの電池も動かなくなる。 思考力は落ち、構図などどうでもよくなってくる。ごく単純なミスを頻発する。

そんな失敗写真が我が家には山ほどある。

段階露出というテクニックがある。同じ構図に対して、段階的に露出時間を変えてベストなものを得ようという単純にして確実な方法だ。

星の写真では露出が難しい。このような暗さではオートは働かないし、段階露出をしようにも、±1段でたとえば5分、10分、20分。星の動きは意外と早く、もうどこかへいってしまう。空が白み始めるころは明るさそのものがどんどん変わる。 露出に失敗したときはかなり悔しい。画像処理に頼るか、来年また撮りに戻るか、できたものを受け入れるか。

結局は一発勝負なのだ。

山の短い夏が終わった。 台風一過の透明な空気を通して、空の向こうまで見渡せる。

今日の朝焼けは鮮やかに染まった。太古より何兆回もくり返しながらも、日の出は毎回その日のみの美しさを持っている。 「毎日同じようには昇らないから飽きることはない」 海辺の民宿できいたおばあちゃんの言葉を重い出した。

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