南アルプス 仙丈ケ岳・甲斐駒ケ岳

ホーム  △次の山  △前の山
>写真

2003年 9月22日−9月24日

長期休暇が取れたので山にこもることにした。
なぜ現在の会社を選んだか。研究室の後輩からは相当いいかげんに選んだように映ったらしい。確かに事務系の何十社も回った人ほどにはうまく説明できないが、いくつかの基準と理由はある。その一つが休暇制度で、年に一度、好きなときに5連休を取ることができるというものだ。(これもあまり自慢できるような理由ではないが。)
5連休ということは、週末を含めて9連休になる。自転車による長期旅行、海外の僻地へいくにはちょっと足りないが、それだけあればかなり色々なことができるだろう。なにも会社員になったからといって、自分のやりたいことを制限していく必要はない。

はじめての休暇は山にこもろうと思った。登山なら予約や長い準備期間が不要だし、手頃な時間がかかり、得られる満足感も大きい。時期は9月下旬、紅葉が始まるころ。場所は八ヶ岳か北か南か。やはり甲斐駒だということで、南アルプスに決定。
現在、東京方面からのアクセスである、南アルプス林道が崩壊している。木曽側からもルートがあって、新宿から高速バスでかなり乗り継ぎが良いことがわかった。これで一安心。

甲斐駒ケ岳

出発は9/22。台風の残した雲は残り、ときおり雨がぱらついている。しかしバスが甲府盆地に入るころから日がさし込み始め、松本が近づくと青ぞらに変わっていった。言うまでもないが、天気は重要だ。天気よりも重要なことはないといっても良い。
今回の大きな目的に、写真展に使う写真を撮ろうというのがあって、その重要性はますます大きくなる。ところがこちらには休暇の日程を選ぶ権利はあっても、天候を選ぶ権利はない。週間予報は3日程度しか当てにならないし、もう選んでもらうしかない。 今回はちょっと選んでくれなかったようで、前日までは台風、その後もそれほど良くはなさそうだ。

長谷村の仙流荘前に12時着。ここから14時発の北沢峠行きのバスに乗るつもりだった。ところがなんと、臨時バスが出るという。
これは嬉しい。非常に幸運だ。今日は北沢峠周辺の小屋泊の予定だったが、これならば稜線まで行けるかもしれない。この貴重な青空の下、山の上で夜を過ごせる!

こうなると昼食に時間をかけてはいられない。バスで地図と時計を何度も確認し、歩行時間を計算する。
上には馬の背ヒュッテ、仙丈小屋の2つの小屋がある。馬の背までは約3時間、仙丈小屋は約4時間とのことだ。頂上直下の仙丈小屋に泊まるのが最高だが、17時着の計算。日の入りギリギリになる。

バスを大平山荘前で降り、薮沢新道をとることにした。
天候は回復しているとはいえ、山の中は雲が残る。バスで上部にいくにつれ雲は近づき、ついには雲の中に入る。周りはまだどんよりしている。
小屋のおかあさんに「仙丈小屋まで行くの?」と声をかけられた。この言葉に勇気づけられ、上を目指すことを決心。支度を整えてパンをかじっていると、小屋のおかあさんはトマトをきって持ってきてくれた。

深い樹林帯を登る。雨あがりの鬱蒼とした空間で、この山がとても大きなものだというのがなんとなく感じられる。
山に来て良かった。ニュージーランド旅行のために新調したリュックも快適で、約3日分ほどの食料を積んでもそれほどの重さを感じない。今回はちょっと一人で来たかった。このところ誰かと一緒に登るのが続いていて、もちろんそれはそれでとても楽しい。しかし一人で登る魅力も確実に存在するはずだ。

道は川に沿っている。付近は霧に覆われ、視界はきかない。が天気の回復も感じられ、対岸の木々もときおり紅葉が始まりを感じさせる色を霧の向こうに垣間見せる。

そのような中を無心に歩いていると、にわかに状況が変わる。雲の向こうの太陽のまわりに光彩ができたかと思うと、青空が広がり、木々の葉がシャープに輝き出す。振り向くと雲の上に甲斐駒がそびえている。その間数分と経っていないだろう。この一歩で雲を越えた、という一歩があったはずだ。
山は劇的だ。

南アルプス 甲斐駒ケ岳 藪沢新藤

もうあとは大興奮で登りまくる。やったーとか良かったーとか叫びながら、馬の背ヒュッテを越え、稜線に出る。すると今度は下界の街、その向こうに広がる連山が見渡せる。日は傾きかけているが、これなら余裕を持って小屋までつくだろう。 いかに長期休暇とはいえ、天気予報を見ると写真を撮るのは今日が勝負だろう。どうやら最高の舞台で勝負ができそうだ。嬉しさとともに緊張感も感じる。

仙丈小屋4時半着。約3時間、かなり飛ばしたようだ。小屋は新築されたということで、清潔だ。事前の調査では素泊りのみと聞いていたが、食事も出るようだ。背後に仙丈のカール、風車の並ぶテラスからは甲斐駒を望める絶好のロケーションだ。が、朝日夕日は5分ほど登って稜線まで出る必要がある。

日が暮れるころからが勝負だ。9月とはいえ、風が強く結構寒い。ラーメンをすすりつつ、前半戦に3時間ほど、9時ころまで撮影して就寝。


4時ごろから再開した後半戦は荘厳な朝焼けで締めくくられた。昨日の臨時バスといい、今日の朝焼けといい、つくづく幸運だった。

朝食を食べて仙丈を一周する。本邦第1の富士に第2の白峰が並び、後方には第3の補高に槍が並び、間の岳、農鳥、甲斐駒、八ヶ岳、中央アルプス連山、奥秩父と日本を代表する山々がほとんど見える。やはり3000m峰はすごい。最近はかなりそれらの山々を 名指しできるようになり、思い出も各地にできてきた。いずれ他の山からここを指さすときもくるだろう。

小屋に戻り、小屋番の兄ちゃんと雑談。大学の休みの間、2週間だけ働いているという。こんな場所で暮らせるのはうらやましい。小屋番て一度やってみたかったが、これからそういう明日はやってくるのだろうか。1年前に比べると、実現性が遠のいたことは事実だろう。

今日はどこまで行くか。仙塩尾根を南下する、甲斐駒から早川尾根へ抜ける(数年前、悪天のため行けなかった地蔵岳へ登れる)、甲斐駒は捨てて北岳へ直行する、などのいくつかの候補を考えていた。だがまぁやっぱり甲斐駒だろう。この格好良い山へ登るというのも南アルプスに来た理由の一つだ。
それならば本日はかなり余裕のある日程となる。甲斐駒まで登るのは無理だろうし、最も高い小屋までは3時間強の日程だ。 今後天気は下り坂らしいが、まだまだ空は青い。最高の登山日和で、最高のロケーションにいるわけだ。

紅葉はちょうど始まったところで、森林限界の最も高いところにある木々が、カスタードソースをまぶしたプリンのように色付き始めている。そんなさまを写真に撮ったり、友人にメールを書いたりして(稜線上ではところにより携帯電話使用可能)ゆっくりと降りていく。

小仙丈をこえると勾配はきつくなり、目の前の甲斐駒ヶ岳は高みを増してくる。このあたりから段々疲れを感じてきた。 徹夜はしていないものの、基本的には仮眠をとったに過ぎない。食事のとり方も良くなかったようだ。眠い!お腹空いた! 難所もなく、それほど長い行程でないときでも油断していると痛い目に合う。 しかしここで休憩しても逆に疲れるだけだろう。とにかく今日の目的地、仙水小屋まで行ってしまい、ワインでもすすって昼寝しよう。

小仙丈から甲斐駒ケ岳

予定よりだいぶ遅れて14時、長衛荘。空腹ではあるがあと30分、変に休むよりももう動かないですむ場所まで行ってしまおう。素朴に砂防工事された川がやがて鬱蒼とした山の源流へ変わっていく。その川に沿って右に左にわたる道をゆっくりと進み、15時ようやくにして小屋についた。

仙水小屋は川の側にたつ、食事が評判の静かな小屋だ。が、今日はテント泊をするつもり。ここのところ小屋泊りが続いていて、ちょっとテントが懐かしくなってきた。 先にテント設営代を払うつもりだったが、小屋には準備中とのロープがはってあり、後回しにする。
麻婆春雨を食べてテント設営を終える。酒を呑み本を読んでいてもまだ準備中。どうしたものかとうろうろしていると、小屋番のおじさんが顔を出した。どうも今日は泊り客はいないようで、長話をした。少し口が悪いところが逆に優しい感じを与える、山の仙人というよりお父さんといった風情だ。彼によると、やはり天気はよくないだろうとのことだ。山では早く崩れて遅く回復する。今年の夏などまったく晴れなかったそうだ。まぁ都会も異常気象だったのだが。
別れ際、葡萄を一房分けてくれた上に、明日の雨を心配してビニールシートを貸してくれた。

明日はなるべく早く出よう。今日はだいぶ疲れたし、その上酒まで入っている。 ご飯を食べて暗くなるころにはもう眠ってしまった。テントで寝るのは去年の自転車旅行以来になるのか。


まだ暗いうちに目を覚ます。まだ雨は降らず、星さえ出ている。かと思うとまたたくまに低い霧に覆われ、ヘッドランプの光線ができる。天気が崩れるのは確実なようだ。
今日は甲斐駒を往復する。早ければ早いほど有利だ。というわけで5時前に出発。模範的な登山者のようだ。

まっくらな樹林帯を10分ほど歩くと岩がゴツゴツした場所に出る。空が開け、やや明るくなった。振り替えると谷筋に雲が溜まっている。あの中にいたわけだな。

5:20、仙水峠。目の前の奥秩父の連山の空が赤く染まっている。かと思うと空のほうがポツリポツリとやり出した。 しかたなく雨具をきて、左の樹林帯の急登に向かう。 荷物も軽く、ホイホイ登れる。目の前のアサヨ峰は目線の位置に下がり、黄色く色づいた葉がモノクロの世界に渋い鮮やかさを加えていく。甲斐駒は時折雲に囲まれ、いよいよ格好良い。 花も陰画

駒津峰を過ぎたあたりから、降ったり止んだりしていた雨が止まなくなってきた。そしてここから不思議な世界が広がっていく。樹林帯が切れ、いよいよモノクロームの世界となる。目に入るのは白い砂と巨大な岩、それ以外は灰色の雲のみだ。
山なのか海なのか。深山幽谷か東山の石庭か。あるいはこの世かあちらの世界なのかわからなくなってくる。白砂と花崗岩と言ってしまえばそれまでだが、あの世への道というか、水木しげるの描く世界を連想させる。雨に濡れて滑るのかと危惧していたが、そんなことはない。程よく湿った砂浜を歩くように快適だ。 この山が信仰の山として栄えたというのも納得がいく。頂上には祠が林立していた。

甲斐駒までもう少し

雨に追われるように頂上を後にし、雲に囲まれている摩利支天も次回に残して下山開始。
途中、計10名ほどの登山者とすれ違う。この雨でも結構いるものだ。 谷筋に雲が溜まる

さて、これからどうしようか。当初の予定では北沢峠から北岳を目指すつもりだったが、これから丸2日間は雨のようだ。 駒津峰で177に電話をする。谷底の小屋付近では携帯電話は使えないが、稜線上ではところどころ電波が入る。

帰ってしまおうか。
おそらく初日に撮った写真はそれなりに写っているだろう。写真展への作品は何とかなる。むしろ早めに準備を始めたい。 まだ休暇は残っている。帰ってしまえば、船にも乗れる。(最近船舶免許をとった)
いや、残るか。
ぎりぎり日曜日まで粘れば、もう1度星空を拝めるかもしれない。雨の山小屋でぼーっと酒でも呑みながら晴間を待つのも悪くない。雨があがれば、紅葉も一段と色づくだろう。 北岳も行きたいし、もし帰ってしまって天候の回復が早かった場合、後悔する。いやそれならば再び丹沢あたりにでも行けば良いか。

テント内は濡れなかったが・・・結論のでないままテントに帰る。借りたブルーシートのおかげで中はほとんど濡れていない。が、これを片付けなくてはならない。雨は本降りだ。テント内なら濡れないが、テントの中でテントを片付けることはできない。
まぁ何とかしまったものの、これにだいぶ時間と労力がかかった。雨にうたれながらの作業で、登山よりもむしろこちらのほうが疲れた。 結局いろいろな物が濡れた。乾燥させないと登山を続けられないだろう。
もういいや。帰ろう。

帰り道、買い出しから帰ってきた仙水小屋のご主人と遭遇する。
「こんな天気じゃ帰ったほうが良いよ。またおいで。」
との言葉に見送られ、お風呂のある仙流荘へのバスに乗り込んだ。

写真展出展作品


コースタイム

9/22 8:00 新宿 13:00 大平山荘 15:20-30 馬の背 16:30 仙丈小屋
9/23 10:30 仙丈岳 14:00 長衛小屋 15:00 仙水小屋
9/24 4:55 仙水小屋 5:20 仙水峠 7:45 駒津峰 8:10 甲斐駒 10:35 仙水荘 13:00 北沢峠
付近の山▲鳳凰山

ホーム  次の山  前の山


ホーム  次の山  前の山