3/9 グリーンストーン サイドトリップ

ここでいったん阪大の大星君と別れる。彼はこのままグリーンストーントラックを抜けてクイーンズタウンへ、僕はディバイドに戻りテアナウへ帰る。目的地が同じならばいっしょに行動するのも楽しいし、不必要に一緒にいることもない。

大星君とは丸4日間行動を共にしたわけだが、昨日初めて正確な名前が判明した。他の旅人と話すときもそうだが、名前を聞く必要性ってほとんどない。これまでの旅路とこれからの目的地の話をして、自分の国の話をして、趣味の話カメラの話仕事の話、かつての旅の話をして、次に名前くらいだろうか。もう二度と会うことのない人たちであり、共通の知人がいるわけでもないので二人称だけでこと足りる。
大星君とは現在置かれている状況がかなり一致しており(旅の日程、目的、現在置かれている立場、年齢など)、一緒にいて居心地が良かった。

朝もやが明け、僕はディバイドを目指す。昨日来た道を引き返し、帰りにレイクマリアンを覗いていくという選択も有力だったが、「Trumping in NEW ZEALND」に紹介されている1538m峰を目指すコースを選んだ。このコースはDOCでは整備していないようで、登山地図にも載っていない。ワーデンに話を聞くと、「Posible,but long,hard」とのことである。
しかしこの快晴だ。森林限界の上を行く稜線上は気持ちが良いだろうし、こちらにきてからデイウォークの往復コースばかりで、ちょっと縦走らしきものもやりたい。ケプラーに行くことはできなそうだし、ひとつ登ってやるか。

11時に小屋を出発。コースの入り口は、マッケラーハットの看板のところから別れている。朝もやは去ってしまったが、相変わらず深い緑の世界だ。
斜面を登るときは目と地面の距離が近い。すべての形あるものは苔に覆われ、手を触れるとどこまでも深く沈んでいく。硬さという概念が存在しない。道は狭いものの、はっきりとついている。

急登1時間強でブッシュラインを抜ける。展望が広がる。だがまだ登りは続いている。
太陽は強烈だが、稜線まで出れば心地好い風が吹いているだろう。


坂の上の雲を目指して

1時ごろ最初のピークに到着。このあたりで、踏み跡はほとんどわからなくなる。湖や周囲の山が見渡せて気持ちいいが、ちょっと不安でもある。目指す1538m峰(topo-Mapでは1543m)は右手にそびえている。あそこまで行ってしまえばあとは緩やかな稜線。何とかなりそうだ。

逆にいうと、そこまで行くのが大変なのだ。道はないし、結構急だし、どうしようか。
まぁ目的地はそこにあるのだ。道がなくなるのは覚悟していたし、ここが文字どおりヤマ場だ。登りは結構なんとかなるもので、草をつかみ、体を支え強引に登っていく。砂利の上を避けて草の部分を登っていけば比較的安全なことがわかった。

約200m標高を上げるのに1時間以上かけて、ようやく頂上につく。うおーーーーーー。


ケルンの立つ1538m峰 一番高いところは一番爽快だ

岩の急降を慎重に下ると、長い長い稜線歩きが始まる。森林限界の上、展望ポイントの集合体、展望ラインである。空は青く雲は白い。風は心地好い。足もとには見たこともない苔類が広がり、可憐な花が咲いている。人間がくるべき世界ではないという気分になる。僕が今ここにいられるのは機嫌が良いから許してもらっているというかんじだ。

稜線といっても、横幅は100m以上もある草原帯だ。歩く人も少ない上に、めいめいが勝手な道を選んでいるのだろう。踏み跡はまったくなくなり、自然のままの状態だ。地形から行く先を判断し、歩けそうなところを歩く。僕の前に道はなく、僕の後ろにも道はない。あぁ大自然よ、いったいどっちに進めば良いのだ。こういう山登りは始めてだ。
過酷な自然環境を生きる植物たちを踏みしめて進む。歩く人が少ないからいいようなものの、気が引ける。
…いやしかし長い。
………
人間の足って意外と性能が良くて多少の起伏なら結構こえることができる。
…所々に池が存在し、…顔を洗って……あぁ気持ちいい……
………
………
今3時でこの場所にいて、この距離に30分かかったからキーサミットにつくのは6:30くらいか?
………
…………
………
…潅木帯にはまった。歩きにくいぞ。
………
………
えっと池がこっちであの山を目指せばいいんだよな。
………
…疲れた。
帰ったらビールを呑もう。
………
……まだか。
………何時につくんだっけ

キーサミットが近づくにつれ、ルートがはっきりしてくる。
6時過ぎ、7時間かけてキーサミットに到着。予想どおり、誰にも会わなかった。ルートファインディングを要するところは初めてだったが、天候も最高で気持ちが良かった。ただ1538m峰の登りがちょっと恐かったのと長くて疲れるというのも本当だ。縦走コースを楽しめたことに満足した。

そして7時にディバイドにつく。ここからはヒッチハイク。観光道路ということでやりやすいとは聞いていたが、最初の車、イスラエル人のカップル(またもイスラエル人!)の運転するニッサン車に乗せてもらうことができた。

宿に戻り、ありあわせのパスタとワインで長い一日を終わらせた。

(3/10,2003 記)