行程
赤根温泉-豊後高田-豊前-勝山-田川
8-29;右の赤 全体図
いかに日頃の行いが良いといっても、一ヶ月も旅をしていると雨の降る日もある。
今日の予報は晴のち曇り。夕方からは雨。台風の影響で、強風が吹き、海は荒れる。
という訳で本日は移動日。博多方面を目指す。
国東半島の中心には、両子山を中心にいくつかの峰が林立している。
海の中に榛名山が浮かんでいる感じだ。海側へ降りることなどせず、その峰々の間を男らしく中央突破することにした。
この地は土質や交通などの影響で、石仏の文化が発達しているらしい。
午前中はその中のいくつかを見物することにした。
とはいっても、お寺ごときに入場料を払うのが馬鹿らしかったり、いちいち遠回りをするのが骨折りで、結局はあまり見ていない。
(密教の修業僧は高いところで仏を作りたがるから、やっぱり馬鹿なのだろう。おかげで無駄な登りを登らされた)
熊野の断崖仏というのはちょっと見てみたかったが、幹線道路で大型車の圧迫を受けなければならなくなる。それよりも交通量の少ない楽な道をいくほうが重要だ。
早く昼ご飯を食べよう。
山間を走っていても、少しでも平地があれば執拗なまでに田んぼを作っている。日本人ってすごいなぁ。
稲穂のじゅうたんに風が走る。
崖に仏が彫ってある
設計者の思想なのか、作られた時代によるものなのか、どこかに走りにくい箇所がある道は、全線にわたって信用できない。
中津で昼食をとった後、国道10号を使うことを避けられなくなった。特に難所ではないが、やっぱり大型車が多く走りにくいと感じた。
これはその後県道に入ったときに強く感じた。車が来ないとはこんなにも快適なものか。自転車旅行のときは、車にとっては不便な道を利用するというのがコツかもしれない。
自転車旅行中、最も恐いものは変質者でも悪天候でもパンクでもなく、トンネルである。それも大型車がバンバン通る長く細いやつ。
福岡を目指すにあたって一つそのようなものがある。何日か前から気になっていたところだ。
なるべくならそういうところを使いたくないものだが、トンネルによってアップダウンを大きく減らすことができるのは、とても嬉しい。
トンネルによっては広い歩道があり、そういうところではメリットばかりを享受できる。
このあたりが厄介だ。詳しい地図でも大型車の数は推測できるが、歩道の有無までは載っていない。
天国と出るか地獄と出るかは実際に行ってみるしかない。
そろそろ日も低くなってきた。今日は住宅地なので野営地を見つけるのも苦労するだろうと、コンビニで詳しい地図を見て見当をつけておく。
そして問題のトンネル。
―ハズレだ。歩道はなく、大型車もよく通る。
旧道の山道を登っていくことも考えたが、路側帯を行くことも不可能ではない。
警報灯をつけて覚悟を決める。
トンネルの中は異世界だ。ここに1時間もいれば気が狂うと思う。
送風機がゴーっ、ピーっ、ドーっを混ぜたような騒音を轟かす。大型車がさらに騒音を加えるのだが、その音は反射してどこから来るのかよくわからない。
照明の切れ目では目の前が暗闇になる。
自転車に許された空間は1mあまり。登り道であるため、スピードは出ない。路側帯の凹凸にハンドルをとられる。
俳ガスが充満し、呼吸することもままならない。
写真をとる余裕がすばらしい
感情を止めて進むことに専念していると、やがて目の周りが明るくなり、新鮮な空気の中へ出る。
ほっとした。
ものすごくほっとした。その安心感から、自分がいかに緊張していたかがわかった。
排気ガスの中からおりたら炭坑の町に着いたのは何かの符合だろうか。
放心してしばらく西の空を眺めていたが、神々しく照らされた雲は何だか現実感がなかった。
無骨な掘削設備の向こうが赤く輝く
日が暮れて、眠る場所を見つけなければならないのだが、あまり思考力は残っていない。さきほど見当をつけていた場所の一つを目指す。
お風呂で疲れをとって、おいしいビールを飲んでよく眠ることができれば、それだけで勝利だ。それが可能な場所を探す。
銭湯は周辺にないようだが、雨をしのげるような場所も見つけた。(困ったときの小学校)あとはビールだ。
やきとり「イーグル」という店を見つけ、おいしく食べ、飲む。
今日も勝利だといえる。
そろそろ店を出ようと思ったころ、ご主人の息子が帰ってきてまたしばらく話し込んだ。自転車で旅行していると、結構話しかけられやすい。
彼は僕より少し年上のように見えたが、聞いてみると結構年上だった。
穏やかで人なつっこい感じの人で、閉店後家に泊めてくれるという。
こんなありがたいことはない。人の親切を当てにするのはいいことではないが、親切にされたときには遠慮してはいけない。
今日も気持ちよくシャワーを浴び、今日も良く眠ることができる。
(2002年8月31日 記)
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