飛び出す星景ムービー

概要

2008年1月に開催した写真展「夜空ハ美シイ」において、「飛び出す星の映像」ってものに挑戦してみました。
実際には星が飛び出すわけではなく、周囲の景色が立体になるわけですが、そういう作品ってあまり聞いたこと無いので、ここで紹介します。

立体写真/ステレオ写真自体は、昔から愛好者の多い分野です。原理などの詳しい説明はいろいろ検索すれば出てくると思います。
例えばここ↓。
http://photo3d.hp.infoseek.co.jp/3d-00.htm
ステレオ日記 二つ目の哲学 ←お奨めの本

撮影したステレオ写真は、練習すれば道具無くても見ることができます。時折ブームになるので、体得されてる方も多いでしょう。ちなみに僕は交差法はできますが、平行法はできません。

しかし写真展で使うには、「皆に見せる」「大きく見せる」必要があります。なので、メガネを使った方法を採用しました。
万博やディズニーランドでやった方は多いのではないかと思いますが、個人でできる手段でも手が届きました。

交差法では


平行法では

原理

右のカメラで撮影した画像を右目のみで見えるようにして、
左のカメラで撮影した画像を左目のみでみえるようにすれば、
人間の脳は立体感を感じるようになります。

ステレオ写真として割と知られた分野で、カメラが発明された初期のころからあるらしいです。
撮影には専用のカメラやレンズを使う、2台のカメラを並べて使う、被写体が静止物であれば1台のカメラを平行移動して2枚撮る、などの方法があります。
2台のカメラの距離を離していけば、人間の目では立体感を感じられないような遠景でも、立体感を誇張することができます。巨人の目から見た景色、ということになります。

ということで、撮影は比較的難しくありません。普通の写真を2枚並べて取るだけです。

その映像を楽しむのに、少し工夫が必要です。
専用のビューアを使ったり、より目で練習したりすれば立体に見えるようになりますが、専用のメガネを使うことで練習無しで見えるようになります。

近年はプロジェクターがかなり普及してきました。 これと偏光フィルターを組み合わせることで、アマチュアでも現実的な金額で立体映像を実現できます。

プロジェクターであれば、連続的に画像を変えることによって動画にすることができます。撮影時には適度な間隔で連射すれば、コマ送りの動画になります。
撮影対象が星であっても、露出時間を長くすれば、通常の映像と同様、動画にすることができます。
これらを組み合わせて、「飛び出す星景色ムービー」となります。

ここは平行法で




動画の作品例 立体じゃないけど

必要な機器類と使い方

撮影時

基本的に、星の写真を撮る道具を2セット準備し、それを平行にセットします。

●カメラ

色調補正やリサイズの手間を減らすため、同一モデルのカメラ、レンズを用意しました。 動画にしようとすると、撮影枚数が多くなります。フィルムじゃ足りません。デジカメ必須です。 コンパクトデジカメじゃ相当機種を選ぶと思います。一眼デジカメがほぼ必須でしょう。 静止画ならば、フィルムカメラ+スライド映写機×2でも可能です。

2台のカメラの設定もすべて同じにしたつもりが、実際には色調や明るさなどに結構な差があり、フォトショップでけっこう補正しました。深い階層の設定が違ったのか、ロットの違いなのか、単にミスなのかは、はっきりしませんが。

●レンズ

ズームレンズだと、何かとやりにくい。同じ短焦点レンズを2本そろえるのが理想です。

星景写真だと、どうしても広角が欲しくなります。
明るい広角系の短焦点レンズを2本。とっても金かかるので、借りられると良いです。貸し出し業者探すのも良いかもしれません。

●他、小物

当然三脚は必要です。

撮影時には、2台のカメラの平行出しが必要ですが、それなりに困難です。水準器は必須なんじゃないかと思います。
水準器でチルト方向を合わせ、方位磁針でパン方向を合わせれば、原理的には平行度はでるはずですが、ちゃんとした治具がない状態ではあまり精度が出ていないようでした。
一番実用的なのは、できるだけ遠い被写体を探して、それを中心にもってくる方法。とりあえず道具なしにそこそこの精度は出ますが、もっと何かしら改善したいです。

2台のカメラ間の距離と、被写体までの距離にはなんらかの関係があるようです。
遠くのものにも遠近感つけようと、カメラ間の距離を離していっても、近景が二つに分離してしまい、立体感を感じられないことがありました。このへんはまだ良く理解してません。

●インターバルタイマー

根性があれば手動でもできますが、専用の道具を使ったほうが楽で正確です。カメラ屋に売ってますが、それなりに高いのです。根性がある人は自作しても良いかもしれませんが、買った方が楽なことは確かです。
ノートPCをUSB接続して、カメラ付属のソフトでやるのも良いかもしれません。

データ作成

PC上で2枚の画像の色調を整える、トリミングなどの作業を行ないます。トリミングの仕方で、撮影時のミスをけっこう救える/助長する ようです。

動画にするために大量のファイルを補正する時は、フォトショップなどのバッチ処理をやりたいところです。

プロジェクターは上映会当日のみレンタルしたので、データ作成時は寄り目でモニター眺めながら編集作業をしてました。

上映時

●プロジェクター

2台必要です。 それぞれに偏光フィルターをつけて、左右それぞれの目に選択的に画像が入るようにします。

プロジェクターの原理と偏光フィルターとの相性があるです。 液晶プロジェクタでは駄目なようでした。偏光版を通すと、色が変わります。 3色を合成させるタイプなんていかにも偏光していそうだし、もしかしたら液晶プロジェクター全部が原理的に使えないのかもしれません。
DLP方式というタイプは使用できます。手頃な大きさのものは少ないですが、探せば見つかります。

僕はCASIO-XL300というモデルをレンタルしました。
産業教育研究所というところで、お値段もお手頃でした。2台分払っても許せます。

●スクリーン

実はスクリーンの入手が一番苦労します。
せっかくフィルターを使って光を偏光させても、スクリーンに当たって光が乱反射すると、普通のスクリーンだと偏光が失われてしまいます。 この対策にはシルバースクリーンというものを使います。金属表面に当たって反射した光は乱反射せず、偏光が保たれる(らしい)。 だから金属を含んだ塗料を塗って作られた、シルバースクリーンというものが必要なわけです。

このシルバースクリーン、ネットで検索するとヒットしますが、めちゃくちゃ高い。プロジェクター本体と桁が1つか2つ違ういます。レンタルも見つかりません。 塗料を買ってきて自作した報告もちらっとあるものの、それも大変そうです。

さらに検索していくと、ニトリのロールカーテンが使用できることが判明。数万円のレンタル代なら覚悟していたのに、なんと3980円。こんな情報がわかるなんて、すごいぞインターネット。すごいぞニトリ。すごいぞ先人たち。

これですべての道がつながりました。
ノー残業デイに、喜び勇んでニトリまで車を走らせることになります。

●スタンド

2台のプロジェクターは、図(準備中)のように並べます。 その位置関係が正確でないと、映像は立体に見えなくなります。もしくは、酔いそうな映像になります。

ベニヤ板とねじで、簡単な微動装置を作りました。無いよりはだいぶ便利です。
チルト方向をねじで微動できるようにして、パン方向はプロジェクター本体を動かします。

●偏光フィルター(PLフィルター)

偏光フィルターを利用すれば、赤青の色眼鏡を使わなくても、左右の目に選択的に画像を表示することができます。

円偏光ではない、直線偏光のもの。普通のやつです。
円偏光は使えない。原理的に不可能なのかまでは理解していないが、少なくてもメガネも円偏光にする必要があるはず。

以下の2つを試しました

・カメラ用PLフィルター

1枚2000円弱。プロジェクターのレンズに近づけ過ぎたためか、熱でやられてしまいました。レンズからある程度の距離を離す必要があるようです。

・東急ハンズで売ってる偏光板

1枚数百円。本番ではこれを使用しました。ガムテープの芯か何かで、汚らしく装着。センスが感じられない。 フィルターを回転させて偏光の方向を調整する必要があります。

どちらのフィルターも、偏光の方向がきれいにそろっていないようで、2枚を重ねて回転させていっても、完全に真っ黒にはなりませんでした。メガネ側の偏光フィルターも同程度の精度でした。

その結果、右目からは右画像だけでなく、左画像もうっすら見えてしまいました。それでも問題なく立体感は得られるものの、品質はちょっと劣ってきます。
研究用などの、もっと偏光の方向がきれいにそろった偏光板を入手できれば改善されるはず。1枚数千円で、個人でも入手は不可能では無さそうですが、時間切れで途中であきらめました。

●立体メガネ(偏光フィルタータイプ)

ネットで購入。1個300円くらい。思ったほど数は要らなかったから、もうちょっとへにゃへにゃしてない、高いやつ買った方が良かったかも。

体写真 「STEREOeYe」- ステレオ写真ギャラリー

●PC

当初はノートPCを2台利用するつもりでしたが、調達のコストや手間、表示の同期の難しさから、1台のデスクトップにデュアルモニターをつける方式に変更。正解だったと思います。

グラフィックボードは近所のヤマダ電機で、1万円弱だったと思います。

●表示・編集ソフト

Vixをうまく使ってなんとか同期をとる方法、Flashを使って動画を作っておく方法などを候補に考えたが、編集に時間がかかる、表現の自由度が減る、同期がむずかしそうなど、決定打に欠けます。

結局ソフトも自分で作ることにしました。僕以外の人が使うこと、他の環境で使うことを想定した作りではないので、ソフト自体は非公開。

結果・感想

▼メガネをかけても、立体視できるかどうかは個人差があるようでした。 すごく感動する人と、どう立体的に見えるのか分からない人がいました。

▼低い雲は立体視できましたが、真鶴から熱海の山くらいだと完全に平坦な遠景でした。
逆に、近すぎても立体感が得られず、近景は分離してしまうこともありました。
このへんのメカニズムはまだ理解してません。平行度が悪いのだろうか。

▼画像によって2台のプロジェクターの調整量が違いました。 データ作成時は、メガネではなく寄り目にして立体視していたので、自分で自動的に調整していたので気づきませんでした。
上映時には、脇で説明しながら位置を調整してましたが、映像流しっぱなしのご自由に見てください状態にはできなかったので手間がかかりました。

▼完成度はそれほど高くないものの、とりあえず形にできて良かったです。
思いついてからそれほど期間が無かったのに、撮影や上映のハード調達、調整、画像調整、ソフト製作と一人で全部やって、自分としては良くやったなぁと思います。

▼今後も挑戦してノウハウ積んでいきたいとも思うのですが、実際にはその後1年手をつけてません。
機器類増えて手軽ではないのだよなぁ。


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