旅のまとめ

ハンニバルとの比較


ハンニバルは9月に峠越えをしたらしい。雪が降って大変だったという。僕は8月。神に祝福されたかのような晴天だった。
ハンニバルは峠越えに15日。僕は3日間。現代の恵まれたインフラと自転車のおかげだ。
ハンニバルは近隣のガリア人に攻撃を受けた。僕はトリノ在住の黒人から手厚い歓迎を受けた。
両者とも、峠越えによって多くのものを失った。以下にその被害を示す。

ハンニバル安田 悠
1万8千の歩兵
2千の騎兵
20頭の象
自転車
自転車用バッグ
テント・寝袋類
カメラ・レンズ・…
撮影済みフィルム・写真データ入りCF
三脚・小型手動赤道儀…
ガスコンロ・鍋・包丁・調味料…
登山靴
衣類
雨具
海パン・シュノーケル

会計


食費雑貨交通費ネットみやげ宿衣類合計
266.24ユーロ60.55ユーロ133.45ユーロ20.9ユーロ132.4ユーロ277.3ユーロ40ユーロ930.84ユーロ
29%7%14%2%14%30%4%

1日平均66ユーロ、約9000円。強盗にやられた悔しさプライスレス。

旅行記


成田を発ってから再び成田に帰るまで、一度も日本語で会話をしなかった。
フランスではフランス語が使われているし、イタリアではイタリア語が使われている。英語も通じる人は多いが、どちらかというと決まりきったやりとりに終わる場合がほとんどだし、たまに誰かと会話するときでもお互いにとって外国語、表現できることはかなり限定される。

話相手が居ないかわりに日記を書いているのかもしれない。自転車漕ぎながらでも、常に何を書こうか頭の中に言葉を巡らせていたのではないかと思う。
そういう作業を続けていくことにより、トラブルが発生したときもやや冷静になれるのではないかとも思う。マルセイユで電車に乗り遅れたときも、パニックになりながらもさぁこれをどう書こうかなと考えていたりする。トリノでは本当にあせったが。

リアルタイムと言っても、あたりまえだが自転車漕ぎながら書いているわけでも、暴漢に殴られながら書いているわけでもない。食事中や就寝前など、その日に書くこともあれば3日間後くらいに思いだしながら書いている。
多少のタイムラグはあるが、そのときに考えたことを思いだしながら書いているつもりだ。自転車を漕いでいるときに考えた断片みたいなものを思い出し、とりあえずそれをPDAに打ち込む。それらを何とか前後がつながるようにきったりはったりして一日の日記とする。
そういった断片は忘れてしまわないようになるべく早く打ち込むが、全体の編集がまだのもの、途中で筆がとまったしまうもの、まだ書き足りないものなどが2,3日分たまる。
したがって、自転車を盗られてしまったあとで峠から下りてくる部分を書いたりして、ややむなしい状況が生まれていた。

一日生活すると、かなり書きたいことができている。自転車こいでいることにより、かなり多くの情報を得ているのではないかと思う。50km、100kmと移動すると、多くの町、自然に触れることができるし、その間多くの判断をしていると思う。自転車こいでいるだけでは面白くないので、写真も撮るし、泳いだり山のぼったりもする。それらをすべてその日のうちに文章化するのは難しい。何とか眠る場所を確保し、夜になると疲れて眠る。あるいは星を見る。結果、更新が滞る。

更新はネットカフェで行った。毎回違うパソコンで行うのだから、それなりに大変だ。
しかし数年前よりも環境は良くなっており、Win2000以上が用いられていることが多い。それだと標準で日本語が使えるようで、やりやすい。
僕はPDAで日記書いてそのデータをCFを介してネットカフェのPCに送る。ネットカフェのキーボードで毎日打ち込んだほうがトラブルは少ないが、この分量をタイプするのは時間がかかるだろう。
CFカードはUSBでつなぐのだが、ここに問題が発生する。PC本体の手前にUSB端子が出ていれば良いのだが、古い端末は背面の、マウスが刺さっているようなところにUSBを差し込む必要がある。
ネットカフェのパソコンの裏側でゴソゴソやる必要があるわけだ。さらに、Win98だとドライバもインストールしなければならない。
当然かなり怪しい人である。こちらはトラブル起こさずに(PC上で)使う自信はあるのだが、店員から見れば要注意人物だろう。
見つかる前にやってしまうのがベストだが、何度か注意された。まぁ言葉がわからないふりをしたり(本当にわからないが)既成事実を作ってしまえばそれほど怒られなかったが。
結構大変なのだ。


言葉


どこかでも書いたが、やはり言葉は重要だ。

確かに言葉がまったく通じなくても、宿も取れるし、料理を注文することはできる。すなわち生きていける。それぞれ相手はプロであり、こちらも何とかして伝えようと思えばわかってくれる。
しかし言葉がわからないと不利なことは多い。自分の好みを伝え、お薦めの料理を出してもらうことはできないし、トラブルがあったときに警察や周囲の人に状況を伝え、力を借りることが難しくなる。とっさに「会計」という単語が出ず、特に飲みたくもなかったコーヒーを薦められるまま注文してしまう。キャンプ場の朝、何か好意的に話しかけてくれているのだが、ただニコニコしているほかに手だてはなく、少しせつない。

英語は通じるか。
通じる人もいれば全然分からない人もいる。どちらかというと、若者はだいたい中学校の教科書程度の英語は話す。
ホテルや飲食店なら通じるかというと、僕の泊まるような安宿では必ずしも通じるわけではない。年配のおかみさんとかだと、娘を呼んできて通訳してもらうことなども多い。

彼らにとっても英語は外国語なのだ。
そんなときには、例えば道を聞くにしても、「Would you mind to tell me where the station is?」と聞くよりも、「Station,where?」
と単語羅列式で聞いたほうが効率が良い。宿をとる時だって、この英語なら伊豆の民宿のおばちゃんだってわかるだろうというような英語でたずねると良い。「1 night single,OK?」 ほらこれならあなたでも覚えられる。

イタリア語、フランス語だってこの要領だろう。
体系的な文法を勉強していないので細かいところは覚えられない。重要な単語をいくつか並べれば、おおざっぱには相手に伝わる。向こうも悟って同じような方式で会話してくれる。単語一つ覚えれば行動範囲が広がる。中間テストの点数が一点あがるのではなく、生活水準がちょっとあがる。そんな生活を続けていけば、だいぶ語学に堪能になれそうだ。
英語が分からない人に英語で聞いたって、どこかの国民のようにいきなり逃げるようなことはなかった。何かしら答えてくれる(僕の分からない言葉で)。あるいは、ジェスチャーで何か伝えてくれる。別に外国人なんて珍しくないらしく、そういうことに慣れているようだ。

たべもの


日本ではご飯、味噌汁、おかずで一食を構成するが、向こうで定食を頼むとおかず2品にフランスパン、デザートという構成が多い。何頼んでもパンは出てくるようなので、サラダとワインを頼むだけで一食にしてしまうこともできる。
一人旅でもあり、言葉も不自由だったので、それほど良い店にはいっていない。どちらかというと頼みやすそうな店を選んでいた。
ワインは安い。ソフトドリンクは割高で、冷えたものを入手するのが意外と苦労した。(自動販売機ない、スーパーでも冷えたものが売っていない。)デザートは、ユースホステルや山小屋でもおいしいものが出た。ちゃんと探せばすごいものがあるのだろう。
一食スナックなら5〜10ユーロ、レストランなら15〜25ユーロだった。
やはりキャンプ生活なら自炊するのが似合う。向こうの食材と向こうの調味料を使えば、自分で作ってもその土地ならではの味は、それなりに楽しめる。

宿


基本的にはキャンプ場を探した。まぁ外国人なので礼儀正しく。
ヨーロッパのキャンプ場ってどんなところかというと、まず受付に管理人さんがいる。ここに売店やレストランが並設されているところもある。あるいはピザ屋の電話番号くらい書いてある。僕もコンロを手に入れる前は、そういうところも利用した。インターネット端末が開放されているところもあった。
敷地は塀などで囲まれていて、夜は一応門を閉めていた。敷地内にはシャワーやトイレ、炊事場などが入った建物がある。ランドリーもあるところが多い。そういうところを狙えば、カメラの充電などもできる。キャンプ場も星の数でランク分けされているが、星が増えるとプールやコテージなどがつく様だが、一泊して流れるだけの僕には関係ない。
料金は7〜25ユーロ。基本料金が大人2人+テント+車というところが多く、一人旅だとそういうところは割高になる。25ユーロ(3000円くらい)だと、安宿の相部屋の方が安くなるが、自分のテントのほうが落ち着けるだろうか。海辺の人気のありそうなところは高くて混んでいた。
どんな人が泊まっているかというと、大体みんなくつろいでいる。家族連れでも友人同士でも老夫婦でも、木陰で読書して音楽聞いて料理作って日光浴、という感じ。
親切な人が多い。僕は石器時代の住人なので、テントを立てるときは手頃な石を探してペグ(杭)を打つ。そうすると90%程度の確立で、誰かが見かねてハンマーを貸してくれる。結構気軽に声をかけてくれる人がいるので、言葉を話せれば友達も作れそうだ。
キャンプ場の数は多い。が、均一に分布しているわけではない。結構かたまっている。地図を買えば、全部ではないが載っているので、今日は寝る場所が見つからないというような事態に陥る前に地図を買っておこう。

キャンプ場がないときはどうするか。
都会ならば安宿を探す。ユースホステルがあれば良いが、なければ2つ星〜星なしのシングル。最初はロンリープラネットに載っているところからよさそうなところを探すが、見つからなければ片っぱしから声をかけていく。安宿も固まっていることが多いようだ。大体30〜40ユーロ。ユースと違い、タオルは置いてある。特に汚いということはなかったし、危険ということもないだろう。英語は通じないこともある。

郊外でなら野宿してしまう。今回はそういう状況は一度だけだったが、町と町の間では野宿する場所を見つけるのはそれほど難しくなさそうだ。現地の人々もけっこうやっている。一部、観光地や保護されているところでは、厳しく禁止されているところもあるようだ。


次回


すべての道具を失い、すぐにまた旅に出ることは困難になった。
これは神様がもう止めろと言っているのだ、真面目に若者らしく女の子の尻でも追っかけっていろということか。
それも一つの答えかもしれない。

旅で自分の何かを表現しなくたって、他にいくらでもあるだろう。例えば特許書くことでも良いし、ソフト作ることでも良い。
しかし、うまく行きそうで大失敗した以上、このままで済ませるわけには行かない。今回の旅が大満足に終わっていたら、あるいはしばらくおとなしくなっていたかもしれない。しかしこうも見事に失敗した以上、次回はその分学習し、成功させる必要がある。

旅の規模、テーマ性、難易度、バラエティ、今回の旅は我ながらとても質の高いものだったと思うが、これに匹敵する、あるいはこれ以上のことができるかどうか。
地球は質量や体積において、僕よりも大きい。10の何乗倍だか知らないが、はるかに大きい。しかし地球の表面積と僕の行くことのできる範囲を比較すると、そこまでの差はない。せいぜい10の1乗倍だ。
大きい地球の広大な範囲のどこかが次回の候補地だ。僕の行くべきところなんて、いくらでも残っているはずだ。
次は北米横断か、中米空中遺跡か、南米の山脈か、あるいはモンゴル大草原か、アフリカ、ヨーロッパ、アジアか、…

(2004 8/25)