連休初日は風邪ひいた。
登山出発を明日に延ばして油断したからか、日頃の疲労が蓄積して体が休みを欲したのかは知らないが、とりあえず1日ぼーっと寝ていた。
風邪が治るように、生姜やにんにく、セロリなんかを多用した料理を作る。 久しぶりに作る自分の料理のおいしさにびっくりした。
自分が美人になるのと、美人を傍においておくのと、どっちが得だろう。
自分で自分の顔は見えないので、自分が美人でもその美しさを楽しめない。かたや、美しい人の隣にいれば、前から後ろから右から左から、その美しさを味わい放題。
山登りの話である。
以上のことを踏まえ、10月連休の紅葉登山計画は南アルプス早川尾根に決定。
あまり目立たない、マイナーな山域だが、付近には北岳、仙丈ヶ岳、鳳凰山、それになんといっても声が届きそうな距離に甲斐駒ヶ岳。格好良い山、美しい山に囲まれた、ハーレムみたいな山だ。マイナーなので10月連休でも人気が少ないところも良い。
今回の計画は二転三転した。
もう一回荒川岳登りたい、鳳凰は?、五竜がいい、などと意見が百出し、参加者も4人から段々減り、あやうく僕も風邪で脱落するところだったが無理して参加。二人でテント1泊ツアーに落ち着く。
アクセスは渋滞と禁酒のない電車を選ぶか、時間に融通が利き温泉にも行きやすい車を選ぶか。車を選んだところ、ほんの少し渋滞もあったがあれよあれよとタクシー、臨時バスとうまいこと接続し、北沢峠に0930着。
紅葉は完全にピークだ。
思い返してみると、この10月連休は3年連続で南アルプス北部にきているが(しかも早川尾根は2年連続だ)、その3年間で1番きれいなんじゃないかと思った。森林限界の一番上のあたりは終わりかけていて、そのちょっと下から登山口くらいまでの広いエリアが、鮮やかにカラフルに色づいている。
半分くらいが常緑樹、4割くらいが黄色くなって、鮮やかな紅が点々ときわだつ。
スタート地点の北沢峠は標高2000m弱。まずは栗沢山、標高2700mくらいを目指す。南アルプスは森林限界が高く、頂上のちょっと下まで樹林帯。最初の1時間ちょっとは割と単調な登り。単調だと思って油断していると、木々の合間から甲斐駒が、白く大きくカッコよく現れる。
見上げれば紅葉もきれいだし、静かな山道をそれなりに楽しく登っていく。
2時間で頂上。昼ごはんと大休止。
残念ながらちょっと雲が出てきて日ざしはなくなったが、移動性の高気圧に覆われて遠望が利く。北アルプスの北のほう、日本海のあたりの山まで全部見える。
明確に決まってるわけではないが、例えば花の形にはなんとなく正面があったりする。 花だけでなく、木もこっちの角度からみると落ち着く、あるいは一番立派に見えるような、正面的な角度がある。
で、必ずしもあるわけではないが、山の形もこちらから見るのが正面だな、というような方向はありそうだ。
早川尾根からは仙丈ヶ岳、甲斐駒ヶ岳といった名山を近くに見ることができるが、どちらの山もかなり良い角度、こちらが正面方向だろうな、というような姿を見ることができる、気がする。ちょっと離れるが、八ヶ岳もかなり良い角度で、甲斐駒の後ろに存在感を見せている。赤岳のあたりの威張ったあたりを45度方向から望んで、これも見栄えがする。
栗沢山からアサヨ峰までは、気持ちの良い稜線歩き。
たぶん、これらの早川尾根のピークは、ほかの山から見てそう目立つところでもないだろう。しかし、ここからは格好良い山を存分に見て楽しむことができる。格好良い山登ってもその山自体は見えないのだから、その隣の山登った方が良いに決まっている。
アサヨ峰までは約1時間。
記憶では栗沢山からは、何か重要な山が見えなかったはずだが、北岳も千丈も鳳凰も見えている。何が足りなかったんだ?というところでこいつを忘れていた。
我が国で最も有名な山。ここに至って、日本の有名な美しい山たちの大部分に囲まれ、その展望をほしいままにすることができる、ハーレムとも言えるような状態が完成したわけである。
南アルプスは国立公園。原則的に、キャンプは指定地のみで許可される。 しかし、やむを得ない場合などは禁止されてるわけではないはずで、体力を失った、日が暮れた、悪天などのときは、安全を確保するために野営するという選択が取られる。
アサヨ峰についた段階で、15時過ぎ。ここから最短の小屋、早川尾根小屋までは標準タイムで2時間。日の入りギリギリだ。
頂上にもテントを張るだけのスペースは確保できそうだ。ここらで野営してしまおうか、という選択が生まれる。
小屋に比べ、頂上は
○人がいなくて静か
○景色が素晴らしい
○金がかからない
○ちょっと寒い
○トイレがない
という特徴がある。これらの条件を受け入れられるか。
もう我々は、ダラダラと合計3時間も歩いた。これ以上歩くのは体力の限界時間の限界、安全を確保するにはビバークするしかないのだ!ということにしよう。 最初からこれを狙ってゆっくり歩いていた、なんてことは当然ない。 (*昨年栗沢山に滞在した時は、ほぼ徹夜だったのでセーフ、テント泊ではないということにしておく)
テントを設営したのちは、雲と太陽の作る光の舞台の幕開け。 雲が切れ、光が差して鳳凰が白く光る。かと思うと白いガスの塊が現れ富士を隠す。 そんなプロローグに続いて、まず第一幕の目玉はブロッケン現象。その名前がなかなか出ず、ドッペルゲンガーに似た名前の現象だ!と叫んでいた。
もうゆっくり晩ごはん食べていられるような状況ではない。 雲間から陽光が指し、雲を赤く染める。山を隠し、際立たせる。千丈の向こうに日が沈んだと思ったら、西の空が赤く燃え上がるように染まる。
このぶんでは、夜もどうなるか分からない。素晴らしい星空が広がって、眠っている場合じゃなくなってしまうかもしれない。 雲っているうちに睡眠とって、疲れをとっておこう。
これが今シーズン初の、羽毛たちのお世話になった夜だ。 半月ほど前は夏のプランだったが、また寒さの中で行動する季節になった。
寒い山の上で一晩過ごすと、いろんな景色が見られる。その代わり、けっこう消耗する。デジカメの電池だけでなく、体も冷えて固まって、秋晴れの紅葉登山よりも温泉の方が恋しくなる。
今日の予定は、このまままっすぐ歩いて広河原、約5時間。特にきつくもない、標準的コースだ。しかし、きた道を戻れば約3時間。 そのまま戻ってしまおうか、という案が出る。 僕はこのコース歩いたことあるし満足に星も見れたし、そもそも風邪気味でそんなにやる気はない。特に長い距離を歩くモチベーションもない。先方がそれで良いのならそれでかまわない。 早く下山して渋滞避けられるというのは魅力的だ。
星空を見たあとの朝は清涼だ。今朝一番の光を浴びた山々は美しい。
歩く。
「甲斐駒かっこいー」とか云いながら、写真を撮る。
また10歩ほど歩く。
「いやいやこっちの角度のほうがすばらしいぞ」と写真を撮る。
10分ほど経ち、雲の切れ目から日が差す。
また陰影の具合が変わって、ますます凛々しくなり、甲斐駒を讃えてまた1枚。
そんなことの繰り返し。
北岳は黒く重量感を見せつけ、白い鳳凰山は華麗である。仙丈ヶ岳は大きくたおやかな裾野を広げ、もみじの錦の、今年いちばんの鮮やかなおべべを朝日に照らしている。
その中でもやっぱり甲斐駒が引き立つ。朝日に照らされた白い花崗岩、その影、真っ赤な葉、黄色い葉、緑の葉、それらが作る、切り絵で細かく描いたようなコントラスト。
重量感と鋭利性を兼ね備えた頂部、柔らかな草原と肩を怒らせた摩利支天。
凛々しい男前の歌舞伎役者が伊達な格好をしているイメージだろうか。
あぁ格好いい。
栗沢山からは、直接北沢峠へ向かう道ではなく仙水峠へ降りる道をとり、栗沢山へ通じる3本の道すべてを制覇する。 甲斐駒を見るなら、栗沢山頂上よりもさらにこの道は適しているんじゃないかと思う。標高を下げるにしたがって、甲斐駒はどんどん大きくなり、見上げるようになる。
11時前に下山。
温泉入って昼飯。高速乗る前の国道沿いの和食系ファミレスにて。
帰りはやっぱり渋滞。関東平野に入る直前で裏道にチャレンジ、峠越え。 やや遠回りにはなったが、たぶん高速よりも早かったとおもう。次につながる裏道の開拓に成功した。
やっぱり風邪気味は風邪気味だ。テントで睡眠とっても治らなかった。 疲れたので家帰って料理。考えなくても料理作れるのは便利だ。
駅前のラーメン屋街。店舗は多いが、どこもコストパフォーマンス悪くて満足度は低い。呼び込みばかりうるさくて、そんなに客も入っていない気がする。
久しぶりに代表の試合を見た。
なんか、ちゃんとチームになっていないという印象。10年前と比べ、世界のトップとの差って広がっちゃってるんじゃないだろうか。
だいぶ風邪もよくなってきた。普通に働きながら治せたのは良かった。
パソコンが使えないと仕事できないっていうのも、僕が働いてるんだかパソコンが働いてるんだかはっきりしないようで、情けないといえば情けない。しかし我々の作ってるものは精密情報機器だ。そんなものだと言われればそんな気もする。停電になると云われれば残業してても仕方がない。さっさと帰る。
鶏のむね肉100g68円を300gほど購入したので、煮て蒸して炊いて、すべてのメニューに使う。料理は電気がなくても、火と包丁があれば作れる。