夜の写真には一枚に数分〜数時間をかける。フィルムはその間の光を蓄積しつづける。刻々と変わる夕闇の紅、星の瞬き、浮かびあがる町の灯り。その光の変化が一枚の絵に積み重なっていく。
一瞬だけが写真ではない。
沈む夕日に今日の晴天を感謝したあとは、もう人間の支配する時間ではない。ご飯を食べて8時には寝てしまう。登山者は町を下界と呼ぶことによって、そのような世界の違いを表現しているのだろう。 夜の世界を支配するのは、どこかにひそむ獣たちであり、空に輝く星たちである。
明日もきっと晴れるだろう。
理科の授業で習ったとおり、星は北極星を中心にして日周運動をしている。よく見ると、北極星も小さな弧を描いているのがわかる。1日に1回転、360度。3時間なら45度地球がまわったことになる。 星が動いたともいえるが、地球が動いたと言った方が正確なわけだ。その間、星は星で膨張運動をしている。
星が動き、地球も動く。それと同時にカメラも動いて、自分も動いている。
チャンスは何回あるだろうか。オリオン座が夜明け前に昇るのは年に一度、一月ほどだろうか。その中で何日間晴れて、それがたまたま僕の行ける日になるか。月のライティングを利用したいとなると、さらに条件は厳しくなる。 だめだったらまた来年。
ちなみにこれはおおいぬ座。その右下には、見ると長生きできるというカノープス(南極老人星)も確認できる。
そんな失敗写真が我が家には山ほどある。
星の写真では露出が難しい。このような暗さではオートは働かないし、段階露出をしようにも、±1段でたとえば5分、10分、20分。星の動きは意外と早く、もうどこかへいってしまう。空が白み始めるころは明るさそのものがどんどん変わる。 露出に失敗したときはかなり悔しい。画像処理に頼るか、来年また撮りに戻るか、できたものを受け入れるか。
結局は一発勝負なのだ。